三毒会議
「---うん、うん、特に異常ナシ。たださーもう笑っちゃいそうで。堪えるのに超必死、つらい」
『あー確かに俺だったら笑い転げてるわ!ってかもう転げてる。腹超いたい』
「マジで顔の筋肉フル稼動で絶対明日口の周り筋肉痛。絶対に紅葉には無理だわ。俺ですらこれからやってけるか心配」
『頑張ってよ蛇ちゃーん』
「うっせソレで呼ぶな名古屋コーチン」
『名古屋コーチン』
ケタケタと笑う声を無視し、話を続ける。
「っていうかさっきから良乃の声聞こえないけど。ミュートしてんの?聞いてる?もしもし?もしもし?」
『何度もうるせー。聞こえてるよ』
未だ名古屋コーチンで爆笑している声とは別に、ダルそうな声が耳に届く。
「うお、生きてた」
『良君、後ろでアンアン聞こえるんだけど』
『あー、うるさい?……ちょっと待ってて』
「俺の初出勤エピソード聞かずに何やってんだよあいつは」
『アアアアアアアアア!!!!!!』
「いいいいうるせえええ」
『キーンてする。耳痛ぁ』
『お待たせ』
「何、やっぱ良乃屍姦の趣味でもあんの?いっつもヤった女殺してね?」
『お前等がうるさいって言うからだろ』
『今日の相手は?』
『なんか後ろ尾けて来てた家出少女』
「うっわぁ……カワイソ」
『慎ちゃん、声震えてる』
口では可哀想と慮りながらも、内心全くそう思ってはないようだ。クスクスと指摘される。
『惚れた男に抱かれて死ねるなら本望だろ』
「良乃のその自信満々な態度嫌いじゃないよ」
『どーも』
「あーいいなー好き勝手できて。俺も早く解放されたい!」
『まだ入って一日目じゃーん。慎ちゃん堪え性なさすぎ』
「黙れ!このままだと俺の顔の筋肉が死ぬ!ただでさえ酷使してんのに」
『表情つくんなきゃいけないの大変だね〜〜〜』
『そんなに三途のメンバー面白いの?』
「もっちろん。今んとこ堂々とトリヴィシャが殺してんの犯罪者だけなのに、”此処の奴らは皆それぞれ、大事な人がトリヴィシャに殺されている”とか真顔で言われんだぜ?それを笑わないように聞かなきゃいけないんだぜ?」
『みんな大事な人が犯罪者でしたとか超ウケる』
『それは確かに面白いなぁ』
だろー?と同意を求めながら、更に続ける。
「で、一日目にして既に加賀君のお腹と顔が死にそうなんで、もう明日にでもお願いしまーす」
『はいはーい』
『慎二はいいのか?』
「だって俺ってば今は正義に燃ゆるヒーローだし」
『お前が我慢するなんてめずらしー』
『じゃあ俺たちは慎ちゃんに捕まらないように頑張ろーっと』
「へいへい頼んだぞっと。じゃ」
『頼まれた』
『ラジャー。あ、良ちゃん血ついてなくてもシャワーしてきてね。臭いのヤダ』
『たっる……』
そこまで聞いて通話を切る。
「俺もシャワー浴びよっと」
加賀はぽそりと呟くと、黒いスマートフォンをケーブルに繋げ、浴室を目指して暗い部屋を歩いた。
「あ、メールとライン返信してない」
浴室から出た後、髪を乾かすのもそこそこに、デュアルディスプレイの正面に座りカタカタと暫く作業していた加賀だったが、後回しにし続けて放っておいたメールとラインの存在を思い出す。
どっこらせー、と声を出しながら立ち上がり、入浴前にケーブルに繋げたスマートフォンではない、机に放置されていた白色のスマートフォンを手にする。
「ごめん寝ちゃってました、と」
届いたモノ全てに同じような文を送ってから、内容に返信する。
時刻は午前四時数分前。返事が届くには傍迷惑な時間である。
「あー、そろそろ四時か」
トリヴィシャご贔屓の動画サイトをアプリで開き、投稿動画のページを更新し続ける。
数回繰り返すと、四時丁度に投稿された「犯行声明」が現れる。
「再生いっちばんのり〜〜〜」
加賀はニヤリと端正な顔を歪ませ、動画を再生した。