私怨(笑)
「じゃあ紹介も済んだことだし、仕事内容の説明してください」
「は?加賀、お前知らないで此処に来たのか?」
「はい!」
心底呆れたような顔をした近藤の問いに加賀は笑顔で応えた。
「まあ機密っちゃ機密らしいっすし。それにしても慎二さん、初っ端から図々しさ極まりないっすね」
と笑いながらも、藤は加賀のフォローをしつつ、丁寧に仕事内容を説明する。
「三途はトリヴィシャの拘束と彼らによる犯罪の阻止を目的とした組織っす。でも三途が作られた途端、トリヴィシャが大人しくなっちゃって」
「仕事がないって感じですか」
「うーん、まあ言っちゃえばそうっすね。一応調べたりはしてるけど、足取りも何も掴めなくて。向こうが動くの待ちって感じっす」
「動画からは何も掴めないの?」
「犯行現場のビルの屋上とかはすぐ分かったんすけど、根城の特定は無理っすね。コンクリ張りの豆電球がある建物なんて、手がかりとも言えないっす」
「豚と鶏の着ぐるみが街歩いてるわけでもないからな」
「ふぅん。……でも、向こうが動くの待ったとして、状況は変わらなくない?」
「そうかもしれないっすけど、前の動画の投稿から時間が経っちゃってるから掴めない手がかりもあると思うんす。鮮度が命っすよ」
「鮮度……?……ああ、犯行直後の現場に時間の経過で誤魔化しきれない証拠があるかもしれないからですか」
「そういうことっす」
「お前も人並みには考えられるんだな……!」
どこか嬉しそうな近藤の言葉には特に反応しない。
「まあ俺たちの目的はトリヴィシャによる犯行の阻止でもあるから、犯行声明が出されたらすぐ行動して、阻止もしてみせるさ」
「うわリーダー頼もしい!そうかー、じゃ今のところはトリヴィシャの犯行声明待ちで、仕事も特になし、と」
「上はただ厄介者を隔離しておきたかったから三途を組織しただけだ。警察にも捜査本部はあるからな。あまり俺らの活躍に期待はしていないようだが……」
「だが?」
「三途のメンバーはほとんど私怨でトリヴィシャを捕まえようとしている、あわよくば殺そうとしているからな。期待されていないほうが逆に動きやすい」
「だけど向こうが動いてくれないからにはこっちもお手上げっす」
「私怨、とは……」
近藤が私怨、と言った途端、部屋の雰囲気がガラリと変わった。
少し申し訳ないような、神妙な顔つきをして加賀が問いかける。
「鶏に屋上から突き落とされて死んだ奴はまあ在り来たりだが、俺の恩人みたいなものでな。調べたら税金を横領とかしてたみたいだが、それでもあの人に命を救ってもらった身としては、あの人が目隠しされてわけも分からぬまま殺されたのを許せないんだ。此処の奴らは皆それぞれ、大事な人がトリヴィシャに殺されている」
「そんな……」
---随分とみなさん、身内に犯罪者が多いんですね。
加賀は吹き出したくなるのを堪えて、体をフルフルと震わせ、喉から絞ったような、悲壮な声を出す。
「いいんだ、加賀も此処への移動を受け入れたということは、何かしらトリヴィシャに思う所があってのことだろう」
「……絶対、絶対トリヴィシャを捕まえましょうね。人数が増えて、俺も心強いっす」
「……はい!必ず…………っ!」
「まだ、今はトリヴィシャが犯行声明を待つだけだがな」
「俺常に動画サイト見ます!みなさんと、トリヴィシャを捕まえるために!」
「その意気っす!」
こうして、トリヴィシャ専門の厄介者集団”三途”に、加賀が加わったのだった。