5.5. ミナとの文通
短めです
ミナが去ってから三日後。
ユートは屋敷の中庭を歩きながら、胸の中のじんわりした温かさを思い出していた。
(ミナ……また会えるって言ってたけど……)
三歳の子供にしては珍しく、ユートは落ち着かない気持ちのまま日々を過ごしていた。
ちょうどそんな時だった。
午後、書簡室へ向かっていた執事長のエルマーが、ユートを見つけて近づいてくる。
「坊っちゃん、こちらにユート坊っちゃん宛ての手紙が届いておりますよ」
「……手紙?」
ユートの胸が跳ねた。
封蝋には、薄紫色の“リュミエール家の紋章”。
(ミナ……!)
震える指で封を開き、同封された手紙をそっと開く。
【ミナからの手紙】
ユートくんへ。
きのうはいっぱいお話してくれてありがとう。
すごく楽しかったよ。
ユートくんの魔力、とてもきれいだった。
わたし、あんなふうに光らせたこと、ないんだよ。
また会えるまで、わたしも魔力のれんしゅうがんばるね。
ユートくんも、一緒にがんばってくれたらうれしい。
またお手紙かくね。
ミナより
ユートは気づけば手紙を胸に当てていた。
(……なんだこれ、めっちゃ嬉しい……)
前世では味わったことのなかった感覚だった。
アリアの文字は四歳児らしく少し丸く、不器用だが丁寧に書かれている。
その一字一字が、彼女の存在そのものみたいに温かかった。
「返事を書くのですか?」とエルマーが尋ねる。
ユートは頷き、
「紙と……書くものを、用意してくれる?」
三歳児にしては珍しい頼みに、エルマーは微笑ましげに用意を整えてくれる。
机に向かい、筆を握る。
手はまだ幼く不器用だが、慎重に文字を並べた。
【ユートの返事】
ミナへ。
手紙をありがとう。
俺も、たのしかったよ。
アリアの魔力の光、すごくきれいだった。
また一緒にれんしゅうできたらうれしい。
また手紙をくれるの、まってる。
ユートより
書き終えると、小さく息をつく。
(こんなに手紙を書くのって……楽しいもんなんだな)
前世ではメールすら返さない男だったのに。
こんな気持ちになるなんて、思いもしなかった。
手紙はすぐに馬車に乗せられ、リュミエール家へ届けられた。
そして――翌々日。
再び、薄紫色の封筒が届く。
中には、前より少し長くなった手紙が入っていた。
【ミナからの二通目】
ユートくん、おへんじありがとう!
ほんとうにうれしかったよ。
ユートくんの字、上手だよ。
わたしはまだ曲がっちゃうけど、もっとれんしゅうしてきれいに書けるようにがんばるね。
それとね、うれしいおしらせがあるの。
父さまが言ってたの。
「ユートくんと文通を続けるのは、すごくいいことだ」って。
だからいっぱいお手紙書いてもいいって!
それからまた今度、父さまと母さまとアルティナール家にいくとき、ユートくんとも会えるよ。
その日を楽しみにしてるね!
ミナより
ユートは思わず笑ってしまった。
(ミナの家……ほんとに優しいんだな)
読みながら、自然と胸が温かくなる。
封筒の端には、小さな花のような魔力の模様が描かれていた。
ミナが魔力で遊んだのだろう。
幼い魔力がふわっと香るような、不思議な余韻が手紙に残っていた。
ユートはまた返事を書いた。
二通、三通――
手紙のやりとりは週に一回、やがて週に二回へと増えていく。
そして五通目あたりから、自然と内容が“二人だけの秘密”を含むようになっていった。
・魔力の流れを感じるのに便利な時間帯
・魔力が暴走しそうになった時の対処
・幼児の身体でもできる呼吸法
・自分にしか見えない“光の粒”の話
ミナも負けじと秘密を送ってくる。
ミナの手紙(抜粋)
わたし、ユートくんにだけ話すね。
たまにね……おふろに入ってるとき、髪の毛のまわりに光があつまるの。
お母さまには「静電気みたいなものよ」って言われたけど……
たぶん、あれ……魔力だと思う。
(やっぱりミナは才能あるな……)
ユートは思いながら返事を書く。
そのうち、二人は“暗号のような書き方”を始めた。
たとえば、
「今日の風はすごくきれいだったよ」
これは“魔力の流れが安定してた”という意味。
「お花がひらひらしてたよ」
これは“魔力が暴れたけど抑えた”という合図。
誰が読んでも子どもの手紙だが、
二人にだけ通じる“魔術のやりとり”が含まれていた。
その秘密の共有が、ユートの心に強く、静かに根を張っていく。
そして、七通目の手紙。
ユートはそこに、今までで一番素直なミナの気持ちが書かれているのを見つけた。
ユートくんと手紙でお話ししてるとね、
なんだか胸がぽかぽかするの。
ふしぎだけど……すごくうれしいの。
はやくまた、会いたいな。
ユートは心臓が跳ねた。
三歳の子供の身体でも分かる。
これは……自分の胸の奥の感情と同じものだ。
(ミナ……)
手紙を胸に抱き、ユートは静かに目を閉じた。
前世で得られなかった、大切な絆。
その絆が、手紙を通してゆっくり育っていく。
そして、二人の文通は――
この世界で生きる意味を互いに確かめ合うように、静かに続いていった。
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