57.ブラックウルフ
緑風の丘に到着した俺たちは、まず荷物を下ろして簡易の拠点を作った。
十二人もいると、テントを張るだけでもちょっとしたイベントになる。
「ジンくん、そこ逆だよ」
「えっ!? なんでだよ!」
「逆さまに立ててるからだよ」
「逆さまってなんだよ!?」
「ジン、落ち着け。棒の向きが逆だ」
リオが淡々と直す。
「……俺、こういうの苦手なんだよなぁ」
「知ってる」
「ノア、お前は知ってるだけで助けないよな!?」
後ろでは、テオとピコがテントの布を引っ張っていた。
「ピコ、そっち持って!」
「ピィ!」
「ピコくん、えらいねぇ〜」
エマが笑いながら撫でると、ピコは得意げに胸を張った。
一方、ミナとセリナは水場の確保に向かっていた。
「ミナさん、この辺り……水の気配があります」
「ほんと? じゃあ、ここ掘ってみようか」
「はい!」
セリナの氷魔法で地面を冷やし、ミナが精霊魔法で水脈を探る。
二人の魔法が混ざり合う光景は、見ていて息を呑むほど綺麗だった。
「……すごいな」
思わず呟くと、隣でエリオットが頷いた。
「ミナさんの精霊魔法……本当に綺麗です。セリナさんの氷魔法も……」
「エリオットくんも、魔力の質がすごいよな」
「えっ……あ、ありがとうございます……」
エリオットは顔を赤くして魔導書を抱えた。
◆
拠点が整ったところで、俺は全員を集めた。
「よし、今日の訓練を始める。まずは――」
「待ってましたぁぁぁ!!」
ジンが拳を突き上げる。
「ジンくん、まだ何も言ってないよ」
「気合いだよ気合い!」
「……まあ、気合いは大事だけどな」
俺は続けた。
「まずは“基礎連携”の確認から始める。
十二人全員で動くのは初めてだから、まずは役割をはっきりさせたい」
「了解」
リオが頷く。
「前衛は俺、カイル、リオ、ジン。
中衛はミナ、セリナ、エリオット、ノア。
後衛はルナ、テオ、エマ、レオン。
この三隊で動く」
「おっけー!」
「了解です」
「問題ない」
「ピィ!」
全員の声が揃った。
「じゃあ、まずは“模擬戦”から始める。
前衛と中衛で組んで、後衛がサポートに回る形で――」
「ユート、敵」
ノアが短く言った。
俺はすぐに周囲を見渡した。
草むらが、さっきよりも大きく揺れている。
「……またホーンラビットか?」
カイルが剣に手をかける。
「いや、違う」
ノアの声は静かだが、確信があった。
草が裂けるように揺れ――
黒い影が姿を現した。
「……狼?」
レオンが弓を構える。
黒い毛並み、鋭い牙、赤い目。
ホーンラビットとは比べ物にならない威圧感。
「ブラックウルフ……!」
ミナが息を呑む。
俺の視界に淡い光が走る。
◆【名前】ブラックウルフ
◆【危険度】Eランク
◆【特徴】高い敏捷性/鋭い牙/単体行動もあり
◆【弱点】光属性/複数方向からの攻撃
Eランク。
倒せない相手じゃない。
でも――油断したら怪我する。
「ユート、どうする?」
カイルが問う。
俺は深く息を吸った。
「――全員、戦闘準備!」
十二人が一斉に構えた。
◆
「前衛、俺とカイルで正面を押さえる!
リオとジンは左右から挟み込め!」
「了解!」
「任せろ!」
ブラックウルフが低く唸り、地面を蹴った。
「速い……!」
カイルが目を見開く。
「ミナ、セリナ! 牽制魔法!」
「うん! 《ウィンド・ショット》!」
「《アイス・ニードル》!」
風と氷の魔法が飛ぶが、ブラックウルフは軽々と避ける。
「避けられた!?」
ミナが驚く。
「エリオット、強化魔法!」
「は、はい! 《マジック・ブースト》!」
前衛四人の身体が淡く光る。
「ジン、突っ込むなよ!」
「わかってるって! ……いや、わかってるけど!」
「わかってないだろ!」
「うるせぇ!」
ジンが拳を構え、リオが木刀を構える。
「リオ、右から行く!」
「了解」
二人が左右から挟み込む。
だが――
「速っ……!」
ブラックウルフは一瞬で後ろへ跳んだ。
「ルナ!」
「うん……《幻蝶》」
光の蝶が舞い、ブラックウルフの視界を乱す。
「今だ、レオン!」
「任せて……《スナイプショット》!」
矢が一直線に飛び、ブラックウルフの足をかすめた。
「効いた……!」
レオンが息を呑む。
「テオ、援護!」
「ピコ、行け!」
「ピィ!」
ピコが小さな火球を放つ。
威力は低いが、牽制には十分だ。
「よし……押せる!」
俺は剣を構え、前へ踏み込んだ。
「ユート、行くぞ!」
カイルが横に並ぶ。
「合わせろよ!」
「そっちこそ!」
二人で同時に斬りかかる。
ブラックウルフは避けようとしたが――
「逃がさない……!」
ミナの風が足元をすくい、
「凍れ……!」
セリナの氷が地面を滑らせた。
ブラックウルフの動きが一瞬止まる。
「今だぁぁぁ!!」
ジンが拳を叩き込む。
ドゴッ!!
「ジン、加減しろって言ってるだろ!!」
「してるって!!」
ブラックウルフは地面に倒れ込み、動かなくなった。
――勝った。
◆
「ふぅ……なんとかなったな」
俺が息をつくと、
「ユート、これ見て」
ノアが草むらの奥を指差した。
そこには――
ブラックウルフよりも、さらに大きな“足跡”があった。
「……これ、ブラックウルフのじゃないよね?」
ミナが不安そうに言う。
「違う。大きすぎる」
リオが低く呟く。
「ユート……なんか、嫌な感じがする」
ミナが袖を掴む。
「俺もだ」
Eランクはあくまで“前触れ”。
本当に危険なのは――まだ姿を見せていない。
「みんな、油断するな。
ここには……何かいる」
十二人全員が、静かに頷いた。
夏の風が吹き抜ける。
その風は、どこか不穏な気配を含んでいた。
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これで昨日忘れたの許してくれー




