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5.新たな出会い

ヒロイーン

春先の柔らかな風が吹く日。

アルティナール領は、遠方からの来客を迎えるため、朝から屋敷全体が慌ただしく動いていた。

いつもは静かな屋敷の中庭にも、使いの馬車が何度も行き来し、

使用人たちが活気よく準備を進めている。

ユートはその様子を、少し離れた裏庭から眺めつつ、自分の秘密の場所で魔力訓練をしていた。

(今日は魔力の巡りがすごく良い……。この流れなら、もう少しだけ操作の幅が広がりそうだ)

胸の奥で渦のように回る魔力を指先へ送り、集中する。


――ぽっ……!


小さな光が弾けた瞬間。


――ひゅんっ。


それとは別の“風”が、横から突然吹き抜けた。

(え? 今の……俺のじゃない)

明らかに魔力が生み出した風――しかも、かなり繊細で均一な流れ。

三歳児どころか、初級魔法師でも難しいレベルだ。

ユートが顔を上げると――そこに、ひとりの少女が立っていた。



やわらかい紫の髪が肩で揺れ、光を透かして淡く輝く。

年齢は多分同い年の3歳。

青紫の瞳は澄んでいて、見た瞬間に“普通ではない”と分かるほどの深さがある。

着ているドレスは動きやすく仕立てられており、遊ぶための服なのだろう。

貴族らしい上品さがありつつも、どこか子供らしい可憐さも残っている。

そして何より――

(今の魔力操作……彼女がやったのか?)

ユートは慎重に少女を見つめた。

少女はユートの視線に気づくと、歩み寄ってきて、ためらいもなく口を開く。

「ねぇ、さっき……魔力、動かした?」

その一言で確信した。

(この子……魔力を“感知”してる……!)

三歳児のユートがやっとできるようになってきたレベルのことを、目の前の少女は当然のようにこなしている。

ただ者じゃない――

そう思うより先に、直感が告げた。

(同じだ……俺と)

ユートは静かに頷いた。

「……うん。使った」

少女は少しだけ瞳を細め、嬉しそうに笑った。

「やっぱり。だからだ。わたし、あなたの近くで風の流れが変わったの、すぐ分かったもん」

(確定だ……完全に“前世持ち”だ……)

少女はスカートを軽く持ち上げ、礼儀正しく挨拶した。

「わたしの名前は―― ミナ=リュミエール 。

 みんなからはそのまま『ミナ』って呼ばれてるの」

(ミナ……“美奈”? 前世の名前の名残か……)

ユートは胸の中で静かに驚きながら、自分も名を名乗る。

「俺は……ユート・アルティナール」

アリアの目がきらりと光った。

「ああ、アルティナール家の……! あなたが、ユートくんなんだね」

ユートは思わず聞き返す。

「俺のこと……知ってるの?」

アリアは小さく頷いた。

「うん。父さまが言ってたよ。『アルティナール家の子がすごい成長をしている』って」

(あー……絶対ベアトリスがどこかでしゃべったな……)

その“天才児扱い”が遠くにまで噂になってるとは、なんとも複雑な話だ。


ミナはユートの顔をじっと見つめ、声を潜めて言う。

「……ねぇ。ユートくんって、“初めてじゃない”よね?」

ユートの心臓が跳ねる。

(やっぱり気づいてる……!)

慎重に返す。

「……ミナも?」

ミナは“秘密を暴露する子供”のような顔で、小声で言った。

「わたし、二回目の人生なの」

その瞬間、ユートは大きく息を吸った。

(本物だ……!)

ミナは続ける。

「あなたの魔力の流れ……普通じゃないもの。子供の魔力ってもっと揺れてて、まばらなのに……あなたのは、すごく均一で綺麗」

(そうか……魔力操作で鍛えてたのバレてたか)

ユートは一歩、前に出る。

「俺も……二回目だよ」

ミナの顔がぱっと花のように明るくなる。

「やっぱり! だよね! そうだと思った!」

テンションの高さに思わず後ずさる。

ミナは目を輝かせ、秘密を共有できた嬉しさで頬を赤らめる。

「ねぇねぇ、前の世界ってさ――ゲームとかあった?」

「……ある」

「ガチャとかも?」

「……ある」

「ソシャゲ課金したことある?」

「あるよ……」

「一緒!!」

ユートは思った。

(この子……めちゃくちゃ“日本人”の波動を感じる……)

アリアは嬉しそうに手を叩き、

「今日ね、わたしの家族がアルティナール家にあいさつに来てるの。

 わたしも一緒に来たんだけど……あなたに会えるかもしれないって、なんだかワクワクしてたんだ」

「ミナの家って……魔導研究のリュミエール?」

アリアは誇らしげに胸を張る。

「うん! でもね、お父さまもお母さまも怖くないよ。

 魔法が得意だけど、どっちかっていうと研究者って感じだから」

(なるほど……どこかの闇な宗教団体みたいな家じゃなくて良かった)

ミナは安心させるように微笑んだ。

「わたしの両親、きっとユートくんのこと気に入るよ。

 だって……“真面目で可愛い”って噂、聞いたもん」

「どこの情報網だよ……」

アリアは楽しそうに笑った。


ユートはふと聞いた。

「ミナの家って……遠いの?」

ミナは小さく首を振る。

「馬車で二日くらい。でもね――」

ミナは嬉しそうに言った。

「年に何度か、アルティナール家とリュミエール家って会合があるの。

 だからまた絶対に会えるよ。毎年……何回も」

(……それは嬉しいな)

ミナは続ける。


「それに――もしユートくんがよかったら……手紙とか、交換してもいい?」


胸が熱くなるような感覚。

三歳児の心臓にしては、ずいぶん大人びた鼓動だった。

「……うん。もちろん」

ミナの笑顔がぱっと輝く。

「よかった! お父さまにお願いしてみるね。きっといいって言うと思う!」

(ミナの家、マジでいい人たちだな……)


ミナはユートの手を引き、言った。

「ねぇ、ちょっと魔力見せて!」

ユートは少し戸惑いながらも指先に光を集める。


――ぽっ。


水色の光が生まれる。

ミナは感動したように目を輝かせる。

「ほんとうだ……三歳でここまで!?

 すごいよユートくん……! わたし、こんなのまだ出来ないもん……!」

ミナも両手を合わせ、魔力を集める。


――ぱぁ……


薄紫の光が広がり、花びらのように空気を揺らす。

(……この子、本当にすごい才能だな)

ミナは照れたように笑う。

「これでも、がんばって練習してるんだよ?」

ユートは自然と笑みを返した。

「ミナ、すごいよ。その……綺麗だ」

ミナは一瞬だけ頬を赤らめて、

「……ありがとう」

と、小さな声で言った。

屋敷から呼び声が聞こえる。

「ミナ、おいでー! そろそろ帰る時間ですよー!」

「はーい!」

ミナは名残惜しそうにユートを見つめ、

「ねぇユートくん……」

「ん?」

「また必ず来るから。約束……だよ?」

ミナは小指を差し出した。

前世でよく見た“約束の形”。

ユートは思わず笑って、小指を絡める。

「うん。約束だ」

ミナの瞳が嬉しそうに揺れた。

「じゃあね、ユートくん。またすぐ会おうね!」

少女は最後に手を振り、使用人のもとへ走っていく。

その後ろ姿は、春の光に溶け込むように軽やかだった。

ユートは静かに呟く。

「……またね、ミナ」

胸の奥に、温かい魔力がふわりと灯った。

まるで、ミナとの出会いが新たな成長の導火線になったように。



――こうして、三歳のユートは“唯一の理解者”となる少女と出会った。

この世界で、同じ記憶を持つ唯一の存在。

そしてこれから――定期的に訪れる“再会”が、ふたりの絆を深く深く育てていくのだった。



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