38.大会前日
ちょい短め?
大会前日。 Sランククラスの教室は、普段の活気が嘘のように静かだった。
誰もが口数が少ない。椅子を引く音、ページをめくる音、深呼吸の音―― そんな些細な音がやけに大きく響く。
ユートは二刀の柄を指でなぞりながら、心の中で何度も明日の戦いをシミュレーションしていた。
ミナは白銀杖を抱え、魔力の流れを整えるために何度も深呼吸を繰り返している。
カイルは落ち着かない様子で足を揺らし、 リオは静かに目を閉じて精神統一。 セリナはノートに魔法陣を書きながら、氷魔法の制御を確認していた。
そんな緊張感の中、教室の扉が勢いよく開く。
「お、全員揃ってるな」
担任のハルドが入ってきた。
「……さすがSクラス。緊張してる顔してるじゃねぇか」
生徒たちは苦笑したが、その表情にはやはり緊張が滲んでいた。
◆
ハルドは教壇に立ち、 黒板に大きく「大会前日」と書く。
「明日はいよいよ新入生闘技大会だ。個人戦も団体戦も、全部“本気”で来るし、俺たちも“本気”で行くぞ」
カイルが手を挙げる。
「先生、Aクラスって本当にそんなに強いのか?」
「強い。お前らが思ってる以上にな」
「だからこそ、今日の作戦会議は重要だ。個人戦も団体戦も、勝つための準備をするぞ」
ハルドは名簿を読み上げる。
「ユート・アルティナール」
「ミナ・リュミエール」
「リオ・フェルナン」
「カイル・ドラン」
「セリナ・クロード」
五人が前に出ると、 教室の空気がさらに引き締まった。
「ユート、お前は“対応力”が強みだ。 剣術、魔法、体術……どれも高水準。 相手の動きを見てからでも十分勝てる」
ハルドは続ける。
「だが、Aクラスには“剣術特化”がいる。剣術に関してはスピードもパワーもお前と同等か、それ以上の奴もいる」
ユートは真剣に頷く。
「油断はしません。全力で行きます」
「ミナ、お前は精霊魔法が強力だが、魔力消費が大きい。個人戦は連戦になる可能性がある。“温存”を意識しろ」
ミナは緊張しながらも答える。
「はい……! 炎と光の精霊は強いけど、無駄遣いしないようにします」
「それでいい。お前は“切り札”だ。使いどころを間違えるな」
「リオ、お前は“技術型”だ。古流剣術は癖が強いが、相手の動きを読む力は誰よりも高い」
リオは静かに目を開ける。
「初見の相手でも、冷静に対処します」
「その冷静さが武器だ。焦ったら負けるぞ」
「カイル、お前はスピードが武器だ。だが勢いだけで突っ込むな。Aクラスには“罠”を仕掛けるタイプもいる」
カイルは苦笑する。
「うっ……気をつけます!」
「お前は“撹乱役”だ。相手を混乱させろ。それがチームの勝利に繋がる」
「セリナ、お前の氷魔法は“制圧力”が高い。相手の動きを封じることを意識しろ。攻撃はその後でいい」
セリナは深呼吸して頷く。
「はい……!氷の結界で相手を止めます」
「その調子だ。お前の魔法は“守り”にも“攻め”にも使える」
ハルドは黒板に大きく「団体戦」と書き直す。
「団体戦は五人一組。お前たち五人で戦う。役割分担はこうだ」
役割分担)
前衛(攻撃):ユート → 敵の主力を抑える“要”
前衛(速度・撹乱):カイル → 敵の陣形を乱す“混乱役”
中衛(技術・サポート):リオ → 状況判断とフォローの“頭脳”
後衛(魔法火力):セリナ → 氷魔法で制圧する“砲台”
後衛(支援・回復・制御):ミナ → 精霊魔法で支える“支柱”
ハルドは言う。
「この構成は“バランス最強”だ。だが、団体戦は“連携”がすべてだ」
ミナが手を挙げる。
「連携って……どうすればいいんですか?」
「簡単だ。仲間を信じることだ。それができないチームは、どれだけ強くても負ける」
ユートは仲間たちを見渡し、 静かに頷いた。
「……信じてるよ。みんなのこと」
カイルが笑う。
「おう!任せとけ!」
リオは落ち着いた声で言う。
「僕も、全員の動きは把握してるつもりだ」
セリナは少し照れながらも微笑む。
「私も……みんなを支えるよ」
ミナは胸に手を当てて言った。
「私も……絶対にみんなを守る」
◆
午後は大会前最後の特訓だった。
ユートは二刀の軌道を何百回も繰り返し、 魔力強化の精度を上げる。 汗が滴り落ちても、動きは止まらない。
ミナは精霊たちと対話しながら、 魔力の流れを安定させる。 炎と光の精霊が優しく寄り添う。
カイルは走り込みで速度を限界まで上げる。 風を切る音が訓練場に響く。
リオは古流剣術の型を何度も繰り返し、 無駄のない動きを極める。
セリナは氷魔法の制御を繰り返し、 氷の結晶が美しく舞う。
ジンは拳を叩きつけるように打ち込み、 悔しさを力に変えていた。
エリオットは魔導書を読み込み、 古代魔法の詠唱速度を上げる練習をしていた。
ノアは無色の刃を磨き、 静かに自分の弱さと向き合っていた。
ルナは幻術の精度を上げるため、 何度も幻影を作り出しては消していた。
レオンは的を射抜き続け、 矢が放たれるたびに空気が震えた。
エマは爆発しない薬を作るため、 何度も調合を繰り返していた。
テオはピコと連携を深め、 召喚獣との信頼を築いていた。
彼らの悔しさは、 確かな成長へと繋がっていた。
◆
夕日が沈み、 訓練場が静かになった頃。
ユートは空を見上げた。
「……明日、絶対勝つ」
ミナは杖を抱えながら呟く。
「みんなで……勝ちたい」
カイルは拳を握りしめる。
「燃えてきた……!」
リオは静かに目を閉じる。
「冷静に……確実に」
セリナは胸に手を当てる。
「緊張するけど……負けたくない」
風が吹き、 五人の決意を運んでいく。
こうして、 Sランククラスの大会前日は静かに、 しかし確かな熱を残して終わった。
明日、 新入生闘技大会が幕を開ける。
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