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12.初めての実戦

少しだけ書き方工夫してみました。

ある日の昼下がり。

ユートは屋敷の玄関で靴紐を締めながら、今朝の父の言葉を思い返していた。

「森に行くなら──浅いところまでだぞ。

 魔物も弱いが、小さくても油断はするな。

 ……ユートの剣は安定してきたが、戦いは訓練どおりにはいかんからな」

父の声はいつもの穏やかさの中に、子を思う慎重さが滲んでいた。

「うん、浅いところまで。無茶はしないよ」

「それでいい。……帰ったら、母さんに心配かけるなよ」

そのやり取りを胸に刻み、ユートは森へ向かって歩いていた。



屋敷の裏門を抜けると、森へ続く細道が伸びている。

木漏れ日が揺れる土の道は、何度歩いても胸が少し高鳴る。

森に近づくにつれ、空気の密度が変わっていくのを肌で感じた。

風に乗ってくる草の匂い、木々が蓄えた湿った魔力の気配。

屋敷の庭とはまったく違う、野生の“流れ”がある。


(父さんが言ってたのは……たぶん、この“流れ”のことも含んでるんだろうな)


戦える者にしかわからない、空気の張りつめた感覚。

ユートは少しだけ背筋を伸ばし、足取りを軽くした。


森の入口で魔力感知を一度広げる。

敵意のある気配は──何もない。


(この深さなら、問題ない)


ユートは浅い領域の、開けた小さな場所へ向かった。

訓練をするにはちょうどいい、陽当たりの良い一角だ。



空を仰ぎ、ユートは呼吸を整える。

「よし……始めよう」

鉄の短剣を抜く。

空気を切る金属音が、静かな森に気持ちよく響いた。


踏み込み。

斬り下ろし。

腰を回し、刃に重心を乗せる。


(……昨日よりも流れがいい)

筋力、敏捷性、魔力操作──

どれも“八歳の身体”に馴染んできている。

ユートはフォームを変えながら何度も斬撃を試す。

剣を振るたびに、日々の積み重ねが動きに滲んでいるのがわかった。

一通り動き終えると、腕に心地よい疲れが残る。

(森の空気に慣れてきたし、次は軌道変更の練習──)

そう考え、短剣を構え直したところで。


──ピクリ。


魔力感知が、細く針のように跳ねた。

(……違和感)

風ではない。

魔物の“存在”だ。


『ユート、今の……魔力がちょっと揺れたよ?』

光の翼を通してミナの声が届く。

『まだ姿は見えないけど……何か来てる』

ユートは静かに周囲へ視線を走らせた。


ガサッ──。


茂みをかき分けて現れたのは三匹の小型狼。

灰色の体毛に黄の瞳。


──《スモール・ウルフ》。


浅い領域ではよく見られる“弱い魔獣”。

だが、ユートにとっては初めての“本物の敵”だ。

『ユート!? 無理は絶対ダメだからね!?』

『うん、わかってる。浅い場所だし、スモール・ウルフなら……いける』

父の言葉を思い出す。


──“小さくても油断するな”──


ユートは短剣を構え、呼吸を鋭く整えた。

ウルフたちが唸り声を上げながら距離を詰める。

一匹目が跳んできた。

ユートは半歩退き、斬り上げ。


ズッ。


刃が柔らかい肉を裂き、ウルフが横へ転がる。

だが──

二匹目、三匹目がほぼ同時に左右から飛びかかる。


(……囲まれてる!)


ユートは後ろへ下がって距離を取ろうとし──


ザリッ!


足場が崩れた。

身体がわずかに傾いた瞬間。

右からのウルフが牙を剥いて迫る。

『ユート!!』

ミナの悲鳴が耳に刺さると同時に、ユートの魔力が勝手に動いた。

右腕に直感的に魔力を集め、強化する。


ガッ!


牙が腕にかすった。

浅い傷だけど、鋭い痛みが走る。

だが、恐怖よりも──冷静さが勝っていた。

(……動ける!)

横薙ぎ。

刃がウルフの胴を裂き、鮮血が散る。

最後の一匹が砂を蹴り、目を細めて飛び込んでくる。

(来る……!)

ユートは息を短く止め、狼の跳躍を凝視した。

次の瞬間──


世界が、わずかにスローモーションになったように感じた。


ウルフの軌道。

牙の角度。

自分の踏み込みの位置。

腕を振り抜く速度。


全部が一本の線として頭の中に浮かぶ。

(見える……!)

ユートは踏み込み、腰を捻り、短剣を突き上げた。


ドスッ──!


刃が喉元を正確に貫き、ウルフが倒れる。

静寂。

森に響いていた鳥の声すら消え、空気が完全に止まっていた。

ユートは荒い呼吸をしながら、震える手で短剣を握りしめる。

腕の傷から血が少しだけ流れるが、深くはない。

『ユート……! 本当に、本当に大丈夫……?』

ミナの声が震えていた。

心配と恐怖が混ざった、弱くて強い声。

『大丈夫。浅い傷だけど……動けるよ』

でも──胸の奥で何かが燃えていた。


初めての実戦。

生き物の気配。

魔力の暴れ方。

剣の通り。


それら全てが重なり、自分の内側で“何かが変わった”と確信できた。

(……剣の感覚が……違う)

手の中の短剣に自然と魔力が集まり、刃の軌道に沿って滑らかに流れる。

意図せず、勝手に。

(こんな魔力の流れ……今まで一度もなかった)

ユートは息を整え、意識を集中させる。

淡い光が視界を覆い、文字が浮かび上がる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<一般スキル>

物理系

・基本剣術(中級)

・剣気操作(初級・NEW) 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……やっぱり、覚醒してた)


「剣気操作」──

魔力を刃の軌道に沿って通す、剣士にとって重要な初歩スキル。


訓練では、どうしても感覚が掴めなかった。

でも今──自然に、身体の中で形になっている。

『ユート……スキル、増えた?』

『うん。剣気操作……初級。

 多分、戦いの中で──覚えたんだ』

ミナが小さく息をのむ気配が念話越しにも伝わる。

『本当に……すごいよ、ユート。

 初めての戦闘でスキルが覚醒するなんて……』

『ミナが声を飛ばしてくれたから、落ち着いて戦えたんだ』

『……ならよかった。

 本当に……無事でよかった……』

ミナの声は少し震えていたが、最後は安心の色に変わっていた。

ユートは短剣を鞘に収め、森の出口へ向かって歩き出す。

腕の痛みが、今日得た成長を静かに教えてくれる。


夕暮れの光が木々の隙間から差し込み、ユートの影を伸ばしていく。


――その影は、八歳の少年とは思えないほど、少しだけ“強さ”を帯びていた。


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