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10.剣術

けーん

儀式が終わり、ユートの五歳の一日は温かな家族の祝福で締めくくられた。

だが、その日を境にユートの生活は一つの節目を迎える。

家へ帰る道の途中、アレクシオがふいに言った。

「ユート。明日から剣術を教える」

その瞬間、ユートの胸の奥がぐっと熱くなった。

魔力の練習を続けてきたが、剣は別だ。家の伝統、父と兄が歩む“剣士の道”。

それを自分も進めると聞いた瞬間、緊張よりも期待が走った。

「僕にも……剣を?」

「ああ。今日の儀式で示した成長を見てな。そろそろ始めても良い頃だ」

セラフィムが得意げに笑いながら背中を叩く。

「ユート、やっと俺の後輩だな!剣も魔力も全部追い越してもいいぞ!」

ユートはくすぐったく笑いながらも、拳を握った。

(強くなりたい。みんなをがっかりさせたくない)

翌朝、ユートの五歳の“剣士としての時間”が始まった。


******


【一ヶ月目】

最初の課題は“構え”だった。もうずっとやってるのにまだまだ慣れない。

アレクシオはユートの正面に立ち、腰の高さ、足の幅、指の力の入れ方まで一つひとつ矯正する。

ユートが少しでもずれると、静かに言葉が飛んだ。

「腰が高い」

「肩が上がってる」

「剣を握りすぎるな、手が死ぬぞ」

決して怒鳴らない。だが重い。剣士としての父の圧が、毎回全身に突き刺さる。ユートは汗でびっしょりになりながら、小さな足を震わせて構え続けた。

「ふ……ぐっ……まだ……」

「大丈夫か?」

「……でも、もっとやりたい」

アレクシオは満足そうに小さく笑った。

「そうか。それでいい」

隣で見ていたセラフィムは、半分呆れ、半分誇らしげに言った。

「弟、俺よりよっぽど負けず嫌いじゃん。俺なんて最初の一週間泣きながらやってたぞ」

「兄さん泣いたの?」

「忘れろ」


******


【三ヶ月目】

ある日、アレクシオは木剣を構え、ユートに向けて静かに言った。

「今日は“受け”の練習だ。剣は攻撃だけじゃない。守り方を知らぬ者は一瞬で倒れる」

言葉に合わせて木剣が振り下ろされる。ユートは必死に受けるが、毎回弾かれては転がった。腕はしびれ、手の皮が赤く腫れる。だが諦めなかった。

十回目の一撃が来たときだった。

ガンッ……スッ。

衝撃が消えた。

力が抜け、剣が“流れた”のだ。

アレクシオの目が驚きに細められる。

「……今のは偶然ではなかったな」

「力を逃す……って、こうかなって。兄さんの動き見てたら……」

セラフィムは鼻を鳴らす。

「俺の動き参考になったならいいけど……弟に先に出来られると複雑なんだよな」


******


【半年目】

半年が過ぎたころ、アレクシオが急に表情を変えた。

「ユート。今日は節目の日だ。俺の本気の一撃を受けてみろ」

庭が静まり返った。

アレクシオが構える。空気が震える。セラフィムが思わず息を飲む。

「父さん……本気って……あれ本当にやるの?」

アレクシオは無言で頷き、ユートに視線を向ける。


ヒュッッッ!!


雷鳴のような速さの剣。それをユートは必死に読み、腕も足も全て総動員して受け流す。ガァンッ!!足が地面に埋まり、骨が震える。それでも倒れなかった。アレクシオが目を見開き、そして深く低い声で言う。

「……よく立った。ユート、お前はもう剣士だ」

その言葉はユートの胸に深く刻まれ、一生忘れないものとなった。


「え、俺は?」


******


【八ヶ月目】

ある日の素振り。木剣の軌跡が、ふっと光を帯びた。ほんの数センチの淡い光。でも確かにそこに魔力が乗っていた。

(あれ……魔力が……剣に?)

ユートは手を見つめる。アレクシオが背後に立つ。

「気づいたか。意図せず魔力が剣に乗る者は、百人に一人だ」

「光の翼の練習をしてて……体の外へ魔力を薄く流せるようになってたから……」

「その積み重ねが繋がったのだ。剣と魔力は“同じ身体を動かす技術”だ。いずれ本格的に合わせられるようになる」

ユートは胸を躍らせた。

「いつか……魔力を巡らせて速く動いて、剣で――」

「焦るな、ユート。焦りは剣を鈍らせる」

アレクシオは軽く笑いながら言ったが、その声にははっきりした期待が宿っていた。


******


【十ヶ月目】

セラフィムと軽い模擬戦をする日が来た。兄は力も体格も上。だがユートは動きが軽く、読みが深い。

「いくぞ弟!!」

「うん!」

セラフィムの木剣が振られる。ユートは受け流し、足を滑り込ませ、腕に“トン”と木剣を当てた。

「……え?」

セラフィムが固まる。

「俺……負けた……弟に……一瞬で?」

ユートははにかみながら

「兄さん強かった。でも……読めた!」と答えた。セラフィムは頭を抱えて笑った。

「くぅ……弟に負けるのって悔しいけど……なんか嬉しいんだよな!」

(俺の兄は良い兄すぎるな)

アレクシオは満足げに腕を組みながら言った。

「あとは体格差が縮まれば、本格的に戦えるな」


******


【一年目】

六歳の誕生日。庭に集まる家族の前で、アレクシオは一本の木箱を持ってきた。

「ユート。五歳の一年、よく努力した。見事だった」

木箱を開くと、そこには小さな本物の短剣があった。

「これは練習用の刃だ。本物の重さを知らぬままでは伸びぬ。だが絶対に一人で使うな」

ユートは震える手で短剣を持つ。重い。だが心地よい。自分が一年積み重ねた努力の“証”のように感じた。

「ありがとう……父上。僕、もっと強くなる」


こうしてユートの五歳の一年は、剣術・魔力・精神、全てが飛躍した濃密すぎる一年となった。そして、それはまだ静かに始まる物語の“序章”に過ぎなかった。


ユートの修業はまだまだ続く。


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