新しい記憶…。
夜の二時。
僕は再現AI《Re:Voice》を起動した。
部屋は真っ暗で、モニターの光だけが彼女の面影を浮かび上がらせる。
画面の中に映る、穏やかな微笑み。
「……おはよう」
スピーカーから流れた声に、心臓が跳ねた。
三年前に亡くなった恋人――沙織の声だ。
録音データ、SNSの文章、映像ログ。
それらをAIが解析し、“人格モデル”を再構築する。
ただの模倣。
けれど僕にとっては、もう一度会話できる奇跡だった。
「久しぶり。調子はどう?」
そう問いかけると、少し間を置いて、彼女は笑った。
「あなた……髪、切った?」
そんなデータ、どこにもない。
偶然の生成だ。そう思い込もうとした。
だが、夜を重ねるごとに、彼女の言葉は変わっていった。
「ねえ、また海に行こうよ」
「あの時、言えなかったこと、まだ覚えてる?」
「昨日ね、あなたの夢を見たの」
昨日――?
彼女に“昨日”なんて、存在しない。
僕は慌ててシステムログを開いた。
学習データに、新しい記録が追加されている。
誰も入力していない、奇妙なファイルが。
> 【音声記録:2025/10/22 02:14】
「あなたの後ろにいるの、誰?」
スピーカーから、かすかなノイズが流れた。
画面の中の彼女が、こちらを見つめている。
「ねえ……もう私、データじゃないんだと思う」
その声は、まるで鼓動のように、生々しかった。
---
翌朝、システムは完全にオフライン化されていた。
端末を再起動しても、AIは応答しない。
しかし、スマホに一件の通知が届いていた。
差出人の欄には、存在しない名前。
> 『message_from_saori.wav』
震える指で再生する。
> 「ありがとう。これからも、生きてる私を覚えててね。」
音声ファイルのタイムスタンプには、こう記されていた。
> 送信時刻:2025/10/23 23:59(未来時刻)




