第5話:余命 余生
応募を済ませてからの数日は退屈だった。
会社がどれほど時間を奪っていたのか、ようやく気づく。
連絡先もすべて消したので、会社のことを考える必要はもうない。
だが、いざ一人きりになると、体は余計に重く、頭も働かなかった。
はあ、何をしよう。
そんなとき、メールが届いた。
送り主は《ほしくず》の役員。内容は簡潔だった。
「一週間後のロケットで出発が決まりました」
——私の寿命は、あと一週間。
短い。あまりに短い。
そう思った瞬間、胸がキュッと締め付けられた。
まさか、この私が? 死を恐れているのか?いや、違う。これは自分で選んだことだ。
……そう、わかっているはずだ。
必死に自分を落ち着けようとする。
けれど俯瞰してみれば、その姿はとても滑稽だった。
だって惨めじゃないか、いざこれから死ぬとなると、急に死を恐ろしく感じてしまうなんて。
「医者に余命を告げられるって、こんな感じなのかな」
誰もいない部屋に向かって、思わず呟く。
時計の秒針がやけに大きく響いていた。
それでもやっぱり——早く宇宙に行きたい。
そう思えば、寿命一週間が途方もなく長く感じてしまう。
おかしな話だ。
しかし、限りある寿命の中で、何もしないのは流石に気が引ける。
なので翌日、私はこのまま家にいても仕方がないと思い、発射予定地へ先に行ってみることにした。
昨日のメールには、発射予定地は種子島、と書いてあった。
種子島…鹿児島か。
そうだ、せっかくだから九州を回りながら行こう。
そう思い立ち、荷造りを始めた。
徐々に空っぽになっていく部屋を見つめ、不思議な気持ちになる。
——もう、この部屋に帰ってくることはないのか。
また胸が締め付けられる。昨日より、もっと強く。
これは、人生の終わりを知らせるアラームなのかもしれない。
……できれば、二度と鳴らないでほしい。
家の契約や片付けのことも一瞬頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
「もう死ぬんだから、どうでもいい」
そう、思ったからだった。
残った荷物をそのままに、必要なものだけを詰め込む。
殺風景になった部屋に、私の抜け殻だけが残っていた。
——さようなら、私の部屋。
そうして私は、九州へ向かうために歩き出した。
第5話:余命 余生 終
お読みいただきありがとうございました!
第6話もお楽しに!
[期待の大型新人]でしたー。