第4話:Easy ( ? ) Escape
翌日、私は真っ先に社長室へ向かった。
会社を辞めることを伝えるためだ。
社長室へ向かう道中に、この会社への恨みがまた、ぶくぶく湧いてきた。
今まで散々こき使っていた後輩が、突然いなくなったらどうするのだろう。
そもそも、同じ部署以外の人は、私の現状を認識していたのだろうか。
それが少し気がかりだった。
ノックをして部屋に入り、あらかじめ用意しておいた辞表を差し出す。
「退職させていただきます」
今までの怒りを込めて、端的に告げた。
だが返ってきた言葉は一言だけ。
「ダメだ」
と一蹴。
そのまま社長は私にやり返すように断った理由も告げず、私に早く退出するように命じた。
現実は甘くない。
少し腑に落ちないまま、私は社長室を出た。
ふう。
深呼吸で、自分を落ち着かせる。
——まあ、いい。
どうせここにいる理由なんて、もうないのだ。こんなところで拒否されたくらいで、私は折れるつもりはない。
いっそ、もう逃げ出してしまおう。
そう思った頃には、体は動き出していた。
ばこっ、ぼこっ、ばこっ、ぼこっ。
走り慣れない靴の音が、廊下に焦ったように響き渡る。
足は、まるで野原を駆ける天馬のようだった。
私は、誰かに見られていただろうか。
私がいなくなったこの場所は、どうなるんだろうか。
そんなことはもうどうでもよかった。
私はただ、出口へ向かって突っ走った。
こうして、私と会社の関係は終わった。
逃げるなんて、案外簡単なことだったのだ。
ああ、もっと早く逃げていればよかった。
……いや、もうどうでもいい。
後悔に意味はない。
だって、私はもうすぐ終わるのだから。
この地球を去って、宇宙へ行けるのだから。
会社から逃げ出せたおかげで、午後は時間がある。
私は、役所へすぐさま向かい、応募用紙を貰いに行った。
役所の人は、私が自殺志願者だからか、嫌にニコニコしながら説明してくれた。
丁寧すぎる笑顔は、どこか闇を感じる。
まるで私を手玉に取ったつもりになっているように感じた。
思わず背筋が凍る。
若干笑顔に戸惑いつつ、私は説明を聞き終えた。
そして、案内された《ほしくず》専門銀行にて、なんとか500万円を振り込み、帰宅。
その後、応募用紙に個人情報を書いて封筒に入れ、駆け足でポストに投函しに行く。
ガコン。
ポストの入れ口の音が聞こえた時、私はすっかり肩の力が抜けてしまった。
ああ、ここまで長かったなあ。
なんとなく私は、回想に浸る。
今までのいじめられていた時期、《ほしくず》に出会った後の世界、そして今日という一日。
こうを思うと、私はなんて目まぐるしい生活を送ってきたのだろう。
我ながら笑ってしまう。
むかついたこともあったくせに、今はそれを忘れて笑うことができた。
さあ、もうすぐ宇宙だ。
そう思って空を見上げると、無数の流れ星が見えた。
思わず私は、「宇宙も私を祝福している」と思い込んでしまった。
もうすぐ終わる私の人生の、ピークはきっとここだ。
そう確信した。
——私はようやく、宇宙への切符を手に入れた。
第4話:Easy ( ? ) Escape 終
今回もお読みいただきありがとうございました!
2025/8/24 現在、SF(宇宙)の部門でランクインさせてもらっています!
本当にありがとうございます!これからも頑張ります!
第5話もお楽しみに!!
[期待の大型新人]でした!