第10話:発射準備
そうして翌日。
今日は私の一つ前の志願者が宇宙に行く日らしい。
興味本意で、というよりすることもなかったから来てみたのだが、いざ当日になると、私はドキドキしていた。
なんといったって、私より一足早く宇宙に行く人がいるのだ。
これは、きっと何か学びがあるだろう。
心の余裕というか、何というか。
そんなものを、これから死ぬ見ず知らずの人に、私は期待していた。
どこで見るのだろう。 もしかして間近?
そう思ったが、役員の人は、私を無機質な部屋に閉じ込めてどこかへ行ってしまった。
つまり、「ここで見ろ! 」ということだ。
少し残念だが、あまり外の空気も吸いたくないので、少し我慢することにして、発射時刻を待った。
そうして現在時刻18:30。
私は、待ちくたびれていた。
私の前の志願者が一向にロケットに乗ろうとしない。
遠目で見てみると、死ぬのを怖がっているのだろう、おじさんらしき人が、必死に抵抗し続けていた。
元々の発車予定時刻が18:00だったので、30分ほどこの調子だ。
いい加減にしてくれ。
時刻が進めば進むほど、苛立ちが募る。
もちろん、こいつが誰だかは知らないが、自分で決めたことぐらいは貫いてほしい。
私は、もうどうしようもなくイライラしてしまう。
と、男に向かって誰かが迫ってくる。
見ると、多分あれは《ほしくず》の役員だ。
スーツに張り付けられた笑顔、間違いない。
流石に説得しないと、と思ったのだろうか。
別に役員は対して焦る必要もないのに。
なんて思ったのも束の間、その男に志願者は取り押さえられた。
え?
どうしたの、何をするつもりなの?
取り押さえられた男は、相変わらず抵抗を続けていた。
すると、続々と役員が出てくる。
1人、2人、3人。
笑顔を崩さず、じわじわと男に近づいていく。
いずれも男の自由を奪おうとしている。
私は、その光景を面白おかしく思ってしまった。
まるで、赤ちゃんの世話をしているみたいで、滑稽だ。
知らず知らずのうちに、私の口角が持ち上がっていく。
あんな風には死ねないなぁ。
嘲笑う様に、肩を揺らした。
するといきなり、最初の男の手元に、銀色に光るものが見えた。
不思議がって、私は目を凝らす。
…注射器だった。
は?
ブスッ
そして、男の首に目掛けて刺してしまった。
すると、一瞬にして男の抵抗が止まった。
私は、突然の出来事に唖然としてしまった。
よく見えなかったが、なんだかヤバい。
もしかして、麻酔を刺したのか? 人に?
あまりに驚きすぎて、呼吸すらままならない。
その後、役員の男らは、動かなくなった男をロケットに運び、無理やり押し込む。
そのまま、まるで予定通りの儀式の様に、ロケットは打ち上げられてしまった。
轟音が響く。
私は、役員の男達が怖くて、ロケットの様子を見ることができなかった。
ただただ、ロケットによって震える大地を足に感じながら、しゃがみ込むことしかできなかった。
そして、あの男達はロケットの煙に包まれて、どこかに消えた。
残り時間は、約1日。
次は、私の番だ。
第10話:発射準備 終




