第九十二話 征く
能力専門学校での戦いから一週間が経過した。今回の戦いで得た情報の共有が終わり、完全に一段落がついたと言えるだろう。
そして俺は現在四大罪人の四人で先生の部屋へと向かっていた。
「それにしても……この四人でいるのも久しぶりに感じるな」
「兄さんだけいつも戦闘に繰り出されてたからね………僕らと言ったら先生が不在の間、あの人の仕事の穴埋めで毎日のように地獄を見ていたから」
「ああ、そうだ。毎日同じ様な書類をチェックして、時折外出出来ると思ったら旧都荒らしの取締りに行けって………あの日々は思い出したくねェな」
俺が色々あったようにこの三人にも色々と苦行が訪れていたようだ。あまり触れないでおこう。
「ところで、どうして先生は私達を呼んだの?特に心当たりが無いんだけど」
「……それが何も分からないんだよなぁ。乃亜、何かしでかしたんじゃないのか?」
「何で私なの! この男共二人の方が怪しいじゃない」
「何だと?あの戦い以来ここに新しく来た女の子とお前が口論してたの見逃して無いからな!」
唐突に矛先を向けて来た乃亜に対して龍が鋭い反論をする。
「んなっ! 何でそれを……あ、あの時は仕方なかったのよ」
そんな雑談をしているうちに、俺達は先生の部屋の前に着いていた。俺は数回ノックをしてから扉を開ける。
「入るぞー……何してるんだ?」
先生は腕を組みながら椅子にふんぞり返っていた。
「やっと来たな……明、確認だがこの四人しか居ないんだよな?」
俺は先生に対して頷きで返す。
「私から全員に選択肢をやる」
そう告げ、先生は一拍置いてから話し始める。
「明、暗、乃亜、龍、お前達四人には成り行きでここまでβとの戦いに協力してもらっていた。だが、今後は更に強敵とも戦う機会があるだろう」
「………はぁ?」
「だから……お前達は次に何かが起きる前に戦いから離れてもらっても構わない。これは他の奴らにも伝えるつもりだ」
美蘭は淡々と言葉を紡ぐ。
「急にどうした?俺達の心配をしているのか?」
俺が煽る様にそう伝えると、
「ああ。私には明確にβと戦う理由がある。だがお前達は成り行きで付き合わせてしまっているだけだ。いつβとの戦いから離れてもらっても構わない」
と肯定した。
「先生……誤解してる様だけど、俺も他の皆も付き合わされてるなんて思って無いぞ。それぞれ理由はあるだろうが………今となってはここにいるメンバーで戦うのが楽しいんだよ」
「なっ、楽しいだと?そんな事で命の危険がある場所に立たせるわけには!」
先生は俺の発言に困惑の色を見せる。そんな先生に対して俺は、
「先生、楽しいってのは立派な人の原動力だぜ?」
と告げる。
「はっ……我儘なクソガキ共が。仕方ねェな、最後まで私と共に戦え。その代わりだ! 死ぬことは許さないからな?」
そんな事を言う先生に対して俺は、
「アンタもな」
と返す。
「誰に言ってやがる。私は誰にも負けるわけにはいかないからな」
「それで、結局何で俺達を呼んだんだ?アンタのことだ。どうせ俺達が選ぶ選択肢も分かってたんだろ?」
俺は先生が能力を使っているだろうことが薄々分かっていた。今後の運命が見えるのなら俺が言うことも筒抜けだった筈なのだ。
「全部分かってたか………良し、それなら本題に入る」
そう言って美蘭は三枚の紙を取り出した。どこか年季が入っているその紙を明達の前へと差し出す。
「こいつは先日新宿にて発見した物だ。内容としては……先代『天使』の遺書に当たる物となる」
美蘭は珍しく真面目な顔をして言葉を発する。
「…………遺書?それに、先代『天使』だと?」
突然の情報に俺は困惑が隠せなかった。
「ああ……これは正真正銘あの爺さんの物だ」
「"あの爺さん"って………先生は先代の『天使』と知り合いだったのか?」
「知り合いというか……腐れ縁だな。今思い出しても面倒な父の様な存在だったよ」
美蘭は少し感傷に浸っているのか言葉の節々には優しさが含まれていた。
「それで……そんな人の遺書を俺達に見せて一体何のつもりなんだ?」
と俺が質問すると、
「富士山へと向かうぞ………私達五人だけでだ」
と先生は答えた。
「………はぁ?富士山?何で急に」
「ここを見てくれ。遺書の三枚目だ」
そう言って三枚目の最後を先生は見せて来た。
そこには『答えは富士山にある』と荒い筆記で書かれていた。
「何だ……これ。ここだけ後から付け足したみたいな」
「インクが新しいわ………この文字だけ比較的最近書かれたみたい」
この場にいる者が一通り反応をし終えた後、美蘭が口を開く。
「βの増長ってのを倒した後にも似た様な事を言われた。あの時はあまり信じてなかったが……天城の爺さんにも言われちまったら信じるしかない」
「じゃあ富士山へ行く目的は……」
「ああ、富士山には"何か"がある。私達の知らない重大な何かが」
そうして俺達の次の目的地が決まったのだった。
ふと美蘭は自身の机を見る。
そこには四枚目の遺書があり、その最後には大きく一文が綴られていた。
『俺は⬛︎の抜け殻だ』




