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大英雄の大罪人  作者: 親の顔よりみた小指
第七幕 不良品のドールハウス
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第九十話 割れた瞳と弔いを

 雨が降る日、未だ戦いの跡が残る能力専門学校の入り口へとゆっくりと歩みを進める男がいた。


「確か場所は………ここだったか。増長、晶、良き友であり志を共にする者としてお前達の弔いをするとしよう」

 雨粒の音と男の足音が静かに空間に響く。

 突然、男は両手を大きく広げる。

「お前達の弔いに、この天気は相応しくない」

そう呟いて、男は校舎の中へと進んでゆく。


 その日、その場所にだけ雨が降ることは無く、見上げれば青空が顔を覗かせていたのだと言う。


________________________


『緊急! 校内の教職員は今すぐ退避して下さい。 繰り返します。校内の教職員は今すぐ退避して……い』

 男が校内へと入った途端、けたたましく放送が鳴り響いた。

「…………騒がしいな………少し黙れ」

そう言って、男はスピーカーに対して一瞥を送る。すると突如校舎全体のスピーカーがその機能を停止した。

「さて、そろそろ人に出会いたいものだが………な」

 男はそう言ってから一つの人影を発見した。


「貴様は……七瀬天狐か?」

「こりゃ光栄さ、私のことをまだ覚えていたなんてね……こんな場所に何の用だい?仮面を付けていてもすぐにアンタだって分かるよ、天野目真二」

「………流石、長生きしてるだけあるな……老人、勘が良いのか?その名を聞くのも久しい程だ。………悪いがその名は既に捨てたものでな」

 男は突如不機嫌そうに頭に手を当てて、

「今はとある組織にて多聞の名を使っている故、もうその名で呼んでくれるなよ?」

と言った。

 

「へぇ、アンタが組織に入るなんてね………お前さんが入るだなんてさぞ高尚な場所なんだろうね」

「ああ、そうだな……そろそろ時間稼ぎは済んだか?」

「フッ、本音を言えばあと五分は欲しいところだがね」

「無論、ダメだな。……時間切れだ!」

 次の瞬間、多聞と名乗る男と七瀬天狐による衝突が起こる。

 

「ほう……一体どんなカラクリだ?それは」

 多聞が驚くのにも無理はなく、倍ほどもある体格差を物ともせずに天狐は多聞の腕を受け止めていた。 

「白髪混じりの老婆だと馬鹿にしていたかね?私はまだまだ現役だよ!」

「チッ、燃えカスめ」

そう言葉を吐きながらも多聞の手は攻撃を止めない。

「アハッ。アンタの攻撃、視えてるよ?この程度じゃあ私の首には届かないね」

「全く、よく喋る燃えカスなことだ!」

 そう言いながら多聞は天狐の腹部に手を当てる。


「発動…………来い!」

 多聞が呟いた途端に、天狐の背後に落ちていた瓦礫が天狐の腹部を貫いた。

「なっ、ガハッ」

「さて……老婆よ。この程度じゃ……何だったかな?」

 痛みに苦しむ天狐に対して多聞は笑みを浮かべる。

「はぁ、はぁ、化け物が!」

天狐はそう吐き捨て、再び攻防は激化して行く。


「先の一撃から貴様の反応速度が一瞬遅くなっているぞ?今尚現役と言いながらも所詮は過去の名の大きさに頼るだけ……だろう?」

「はぁ、はぁ、なぁに、まだまだアンタの攻撃じゃあ倒されはしないさ」

 何手もの攻防が起きた後、多聞は一つのことに気づいていた。

 

「七瀬天狐、貴様のその目……一体何を視ている?」

「………碌に能力も使わずに目のことに気付くとはね。侵入者の撃退なんて引き受けるんじゃなかったよ」

 天狐は痛みからか腹部を押さえながら言葉を綴る。

「…………俺の攻撃の弱点が視えるのだろう?」

「はぁ、よく気付くもんだ。正解だよ」

 悔しそうに天狐は顔を顰める。


 攻撃には必ず弱点がある。そこを突かれると力が抜けたり軌道にズレが生じたりしてしまう。

 七瀬天狐の『鑑定』はその弱点を目で視るという行為を通してリアルタイムで認識することが可能となる。七瀬天狐はその弱点を突き攻撃を受けることにより実力差を簡単に覆すことが出来る。


「先程の瓦礫は貴様の死角からの攻撃。つまり、防ぐことは不可能、そう言うことだろう?」

「ああ……その通りさ」

「さて、それでは……まだやるか?老婆よ」

 多聞は余裕を持って告げるが、天狐は

「次の一撃で終わりさ。アンタをこの先へと進ませないのが私の使命だからね!」

と言った。

 

「そうか………すまないな、貴様が現役と言うのは本当のようだ。カスと思っていたが、まだ火は着いていた」

「老人は馬鹿にするモンじゃないよ……本気で来なよ! 天野目真二!」

「ハッ、その名は捨てたと言ったんだがな! ボケ始めたか?天狐先生よ!」

 二人は向き合ってしばらくの静寂を過ごした。


「次は能力ありで行こう! ご自慢の目で耐えてみると良いさ!」

 口を開いた多聞に吊られて天狐も、

「絶対視てやるから、来な! 若造」

と煽り合う。



 途轍もなく大きな衝撃が校舎中に響く。

 衝撃により立ち昇る煙の中、姿を見せたのは、多聞だった。


「少しは楽しめたぞ?能力研究の第一人者、そして研究者としての俺の師、七瀬天狐よ」

そう言う多聞の目の前には血を吐きながら膝をつく天狐の姿があった。

 

「はぁ、はぁ、嘘だろう?アンタはこの戦いでまともに能力を使ってない。悪かったね、相手が打たれ弱いババァでね」

「気にすることではない。何しろ今日は誰とも戦うつもりはなかったのだから。貴様は大健闘と言ったところだ……案内役に使うのだから、死ぬなよ?」

 多聞は天狐の腹部に手を当てる。瓦礫が貫通し重傷である腹部へと。

「何だ?臓器への損傷が殆ど無い…………まさか貴様、ギリギリで急所への軌道を……瓦礫を視たのか?」

「………何も視てないさ。あの瓦礫は、勘だよ。急所を避けたのは完全に元師匠としての勘。アンタなら私の能力を知るためにあの場面で死角から攻撃して来ると思った。それだけさ」

そう言って天狐は多聞に笑みを浮かべる。

 

「ハッ、何とも、ふざけた老人だ。さて、何か他に話したいことでもあるか?」

「そうだね………一体何故神話種であるアンタがβなんて組織に入っているんだい?」

「……俺がβの長だからな。βはアンタが逃げた道を辿って行く。既に結晶は三個集まっているのでな。実現の刻も近いさ」

 多聞の回答を聞き、

「なっ、アンタまさか『神降ろし』を実現する気かい?」

「………先生、貴女の研究、使わせてもらうよ」


 次の瞬間、多聞は手で印を組む。仏の様であり、また悪魔をも彷彿とさせる威圧を醸しながら。

「久しぶりに貴女と話せて面白かった。少しの間眠っていてくれよ?……もう聞こえてないか。既に俺の支配下なのだから」

 そう言って多聞は天狐を引き連れながら先へと歩みを進める。


「ああ、忘れていたな。七瀬天狐よ、晶と増長はどこへ安置してある?教えろ。β襲撃による死者の安置所もな。葬儀はまだだろう?」

「…………はい」

「はぁ、威厳のある話し方という物は難しい、やはり俺には向いていないな。そう思わないか?七瀬天狐よ」

「…………仰る通り」

 天狐は何一つ言い返すことなく多聞に付き従っていた。まるで感情の無い人形であり、奴隷の様であった。


「師へとこの力を使うとは……何とも複雑だ」

多聞は複雑そうに笑みを浮かべる。



 翌日、明達の元へは能力専門学校陥落の情報が伝えられたと言う。

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