第八十九話 巡り巡るあの日
「ぅん……んん」
眩しい……何の光だろう。この光、何だろう……暖かくて凄い落ち着く。
「お、ようやく落ち着いたか?美蘭」
美蘭が苦しみ始めてから一時間程が経過、天城は一時間もの間絶え間なく浄化を使用していた。
「全く……アホほど体力使わせやがって」
「………爺さん?私……何があったの?アンタにやられてからの記憶が朧げなんだけど」
「……朧げ?ハッ、朧げか! 今日はお前に驚かされてばかりだな。面白ェ」
面食らった様な声を出した天城は最終的に笑みを浮かべた。
「そんじゃ美蘭、奏を連れてこい。家に帰るぞ」
「………おう!」
何故勝てたのか。自身が発揮した異常な強さは何だったのか。様々な疑問が喉元まで出かかったが、美蘭は天城の顔を見てその疑問は自分の中に留めておこうと決心した。
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海上にて、美蘭と奏は行きと同じく天城により運ばれていた。
「うぷっ……爺さん! もっとゆっくり飛べって…………」
美蘭が天城への愚痴を入れようとした時、美蘭の目には天城が複雑そうに考えている様子が目に入った。
「なあ美蘭………テメェにしか任せられないことがあるんだが………一つ聞いちゃくれないか?」
「…………何だよ」
そこで天城は何かを悟る様な顔をして、
「お前に教えないといけないことが沢山あるんだ……が、それを伝えるのは俺が死んだらだ」
と言った。
「………は?死んだら?何のことか知らないけど今教えてくれれば良いじゃん」
「出来れば誰も巻き込みたくねェ内容なんだ。そして、任せたいことってのが俺の遺書を見つけ出せってことだ」
「………いや、さっきから何言ってるのか分からないんだけど……死ぬ?遺書?爺さんは何の話をして……」
美蘭はこれまでの天城とは雰囲気が違う喋り方、そして突拍子もない話の内容に強く困惑していた。
「そりゃお前に理解されるとは思ってねェよ。これは俺の独り言みたいなモンだと思ってくれて構わないさ。だが俺が死んだ時は言う通りにしてくれよ?美蘭」
「………何のことかよく分からないけど……そういう大事そうな話なんだったら何で私一人に言うの?奏は疲れて寝ちゃってるし……私だけにしか頼めない理由でもあるの?」
そんな美蘭の話を聞き天城はすぐに、
「テメェが最強の能力者だからだ。美蘭、今のお前ならこの日本……いや、世界一強いかもしれねェな」
と答えた。
「はぁ?最強?私より強い奴なんて沢山……」
「いねェ。断言してやる。美蘭、お前は頂上に成ったんだよ。能力者の誰もが憧れる強さの天井に至ったんだ。俺を倒してな」
すらすらと最強と返す天城に美蘭は、
「い、いや。私が爺さんを倒した時はあんまり意識が無かったというか……記憶が朧げなんだって!」
と困惑しながら答える。
「記憶が朧げだろうが今のお前には頂上にいた時の経験がしっかりと残っている。お前の身体は能力者として一皮も二皮も剥けた状態ってことだ」
記憶が朧げと言っても尚意見を変えない天城に対して、呆れながらも美蘭は、
「…………あっそ。もう何言っても意味ない気がするから良いや。………それと爺さん、当たり前だけど今すぐ死ぬつもりはないんだよね?」
と真面目に質問する。
「ハッ、無論、お前ら姉弟を鍛えるって約束しちまったからな。それに俺が死んだらってのはもしもの話だ。実現しないのが一番さ」
「なら良かった。これ以上大事な人がいなくなるのなんてゴリゴリだしさ」
「ほう……大事な人か。嬉しいことを言うじゃねーの。美蘭、強くなれよ?大事な人を全員護れるように」
「…………うん」
二人の会話が感傷的になり始めた頃、陸地が見えてくるのだった。
「見えたね。帰ろうぜ、爺さん」
「そうだな………?ハッ、美蘭、テメェ話し方が俺に似てきてるぜ?」
「良いだろ?強そうで」
「生意気な! 今後はもっと厳しく鍛えてやるから覚悟してろよ?」
その日の海上には、二つの笑い声が響いたのだと言う。
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今より十年前。世界各地にて能力結晶による災害が起きた日の爆心地東京にて。
「……こりゃ酷いな。私の周りの奴は能力で守れたが……一体何が………爆発か?」
美蘭が空中から辺りを見渡すと、そこかしこに影響を受けた人間の肉体が転がっていた。
「ダメだ、全員死んでる。それに体も焼け爛れて……何だよこれ……東京が崩壊って………被害が、デカすぎるだろ」
そんな時、美蘭の目に一つの光が入ってきた。
「…………何だ、あの光。あそこに誰かいるのか?向こうのほうは………新宿か」
進むにつれて周りの風景は建造物の痕跡すら無い平地になって行く。
「この辺にいた人はさっきの爆発で全員………って、何だよあれ。人間か?」
美蘭の視線の先、凄まじい光を発していた場所には四人の子供の姿があったのだった。
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「美蘭さん、美蘭さん! ……光君、中々起きないね」
「………仕方ないさ。昨日は本当に色々あったんだ。それに先生からしたら弟を失ったんだ。今は邪魔するもんじゃないぞ、凛」
「うぅ、それもそうだね。急ぎの用じゃないし美蘭さんが起きてからにするよ」
「先生………凛が邪魔したな。って、涙?泣いてるのか?ハッ、一体どれだけ前の夢を見てやがるんだ?」
美蘭の涙を拭いてから部屋を出ようとした明は、
「………いつも色々と背負わせてごめん。先生」
と振り返って言うのだった。




