第八十七話 虚構の脅威と高揚感
美蘭は掌を空へと向ける。
「今度こそリベンジだ。来いよ……爺さん」
そう言った途端、美蘭の目の前に凄まじい速さで人影が落ちてくる。
「今回こそ着地成功っと。三度目の正直ってやつだな」
その人影は美蘭達二人を睨み、
「さて……お早いリベンジだな、美蘭。そんじゃ戦るか?」
と言った。
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「美蘭よ、夜俺に散々負けたのをもう忘れたのか?」
そう言いながら天城は美蘭との距離を詰める。
「忘れてないよ、爺さん。………奏、アンタは下がってなよ?」
「あ、ああ」
奏は天城から視認されない程の距離まで後ろに走って行く。
美蘭は天城と一対一の形となった。
「………失敗は出来ない」
今ここで負けたら多分明日はまともに戦えない。昨日の疲労が溜まりすぎてる。だから……ここで、勝つ。
昨日の夜、散々天城に対して能力を試した結果、人間に対しては能力の効きが悪いことが分かった。
例えば、木に対してなら"折れる"という運命に導ける。
だが、人間……特に他人の運命を操ろうとすると限界がある。
直接的に相手を倒そうとする運命には導けない。攻撃の軌道を逸らすと言った程度が限界なのだ。
私が一度に操作できる物体は一つが限界。爺さんに同時に何度も攻撃をされたら防ぐことができない。
爺さんの一挙手一投足を慎重に観察して攻撃を防がなければ負けだ。
「……ん?今俺の攻撃を避けたのか?今まで防げすらしなかったお前が?」
「………うるさいよ……集中してるんだ」
「ハッ、生意気な」
出来てる。爺さんの攻撃を逸らせてる。一撃でも受けたら終わる。………この調子で…………っ!
「マズっ! 腕で受けっ」
「数発避けれたからって図に乗り過ぎだバカ。拳にばかり注目してたら負けるぜ?」
天城はさり気なく攻撃に翼を織り交ぜていた。
「はぁ、はぁ、ミスった」
美蘭は、翼による攻撃を瞬時に右腕で受け防いでいた。
右腕が痺れる。翼だけでこの威力……やっぱ何なんだよこの爺さんは。
「次は喰らわない。そんでもってアンタに一発叩き込む!」
「おーおー、言うじゃねーの。………ま、今のテメェには不可能だろうがな」
「美蘭、テメェさっきから能力使ってんだろ?攻撃の時に違和感があった。俺の運命をほんの少しだけ弄ってるな。昨日の夜やりたかったのはコレか」
クソッ、もう戦い方がバレた。初見の優位性を保ったまま球を奪うつもりだったのに。
「俺の攻撃を"逸らす"か。なるほど、考えたな。……付き合ってやるよ、お前の戦い方にな」
「はぁ、はぁ、ぐっ、避けっ」
マズいな、私の反応が遅れて来てる。昨日の疲労が合わさって全身が怠い。
「美蘭よ、体力切れなのが見え見えだぜ?ここは素直に負けとくんだな」
天城が拳と両翼を使い三方向からの攻撃を繰り出す。
「マズっ! 避けきれなっ」
仕方ない。体力をごっそりと持っていかれるけど、直接操るしかない。
美蘭は天城に手を向ける。次の瞬間、天城は大きく後方に吹き飛ばされていた。
「はぁ、はぁ、ダメだ、死ぬッ」
美蘭は体力切れにより全く動くことが出来なくなっていた。
「ハッ、やるじゃねーか美蘭。ここまで傷を負ったのなんて久しぶりだ。はぁ、少し舐めてた。………浄化」
吹き飛ばされた先で天城は独り言を言いながら自身の治癒をしていた。
「良し、行ける」
治癒が完了した天城は決着を求め美蘭の元へと向かおうとしていた。
「やぁ天城さん、隙だらけだね」
そんな天城の元へと人影が迫るのだった。
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「あーマズったな。一歩も動けない。爺さんが戻って来たらまた負けだな」
動くことを諦めた美蘭は仰向けになって空を眺めていた。そんな美蘭の元へと一つの足音が聞こえてくる。
「美蘭、テメェは体力切れか?お前ら二人とも明日はまともに動けないだろうし、今回の鍛錬は失敗だな」
「ま、待て、二人?今二人って言ったか?」
奏は後ろに逃した筈だ。まさか、吹き飛ばした場所で天城と戦ったのか?
「ああ、奏が攻めて来てよ。ボコボコにしてやったさ」
私はダメだな。天城に一度負けてから強くなろうと決めたのにまた奏を守れなかった。
本当に腹が立つ。私はいつまで経っても能力が使いこなせない。イメージを働かせるのが苦手なんだ。もっと私に想像力があったら。もっと圧倒的な力があればっ。
クソッ、爺さんに出会ってから負けてばかりだ。私の弱さがどんどん露わになった。本当に嫌になる。
感情が昂っている。何故だろう、呼吸が荒くなって震えも止まらない。体が熱い。
その時、私の体の奥からパキッという音が鳴った気がする。何かが私の体の中で起きたのだ。思考が急に晴れる。
あれ?おかしいなぁ、戦うイメージが急に湧き出て来た。こういう時の気持ちって何て言うんだっけ、高揚感?まぁ、どうでも良いか。
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体が震えて息も絶え絶えだ。美蘭ももう限界だな。奏のことで少し煽ってみたら何かが覚醒するかとも思ったが、厳しいな。
期間を三日も用意しちまったからなぁ、あと一日何して暇を潰そうか………退屈だ。
「やぁ、爺さん。もう一度やろうよ」
「………は?美蘭、お前その状態で何で立って……」
体の震えが止まっている。それに呼吸さえも落ち着いている。何が起きた?異常だ。
「退屈だったでしょ?私達二人みたいなガキの鍛錬するなんてさー。だからぁ、本気で来て良いよ?」
「くはっ、何が起きたのかは知らねーが、面白くなって来たな、美蘭!」
「それじゃあ、もう一度やり直そうかぁ。天城サン?」
そうしてこの島での最後の戦いが起きようとしていた。
どもです、親の顔よりみた小指です。数日間忙しくて全然投稿出来てませんでした。今日より投稿ペースを戻して行きます。よろしくお願いします。




