第八十五話 能力の深化
「……折れろ、成長は無理でもこれなら……」
しばらく時間が経ち、美蘭は再度樹木の前に立って手を突き出していた。
「途中で折れる想像……今辿っている運命とは違う道を作ってあげる感覚………」
すると、突然樹木の一部が腐敗を始めた。急激に強度が落ち、樹木は重さに耐えることなく折れた。
「……で、できた。完璧」
美蘭はたったの一日で能力の知覚からコントロールまで成功していた。
「姉貴、何か凄い音がしたけど……って何だよこの木!」
「奏、"聞いて驚け"よ! 『運命』のコントロールに成功した。だったの一日足らずでね!」
状況を見に来た奏に対し、自慢気に話す美蘭。そんな美蘭の出鼻を挫く様に、
「いや、能力ってそこからだから。コントロールなんて俺だって出来てる。それに姉貴が成功したのは俺がアドバイスしたからだろ?」
と奏は冷静に告げる。
「はぁ……まあそればかりは否定出来ないんだけどね」
能力を発動する度に集中して立ち止まっている様じゃ戦闘には活かせない。それは美蘭も薄々は考えていることだった。
「"閉じこもってばかり"で能力を鍛えてこなかった姉貴は知らないかもしれないけど、コントロールは第一段階なんだよ」
「うっ、最初のは余計よ。今までの雑魚は皆身体能力で伸しちゃったんだから能力は要らなかったの。……それで、第一段階ってどういう事?」
「能力のコントロールはまだ入門編って所。更に進んだ第二段階は正に……"技"を作ることだね」
奏は得意そうに話す。
「技……ってどゆこと?必殺技みたいな?」
「うーん……そこは人それぞれだな」
奏は少し考える様に顔を傾けながら、
「俺の場合は威力を高めて一つの必殺技にした。……というか自分の能力あんま知らないから"大声を出す"がトリガーって分かってるならそこを極めるのが一番だろうし」
と言った。
「ただ、能力で出来る事を全て均一で強化していくって手段もある。それだと必殺技を作る時と比べると、瞬間的な威力は落ちるけどバランス良く立ち回ることが出来る」
「な、なるほど。ってか奏、アンタいつの間にそんなに能力に詳しくなったの?」
能力の説明に飽きたのか美蘭は話題を逸らそうとする。
「え……えっと、昔、憧れてたんだよ。必殺技にさ」
「え、ええ! それだけでこんなに能力に詳しくなっちゃったの?可愛いとこあるじゃん!」
「うっ、うるせーな。ちゃんと考えたんだから馬鹿にすんなよ!」
「ふふっ、冗談だよ。奏、アンタの必殺技……鯨の聲だっけ?詳しく教えてよ」
「……『鯨の聲』は相手を吹き飛ばす技だ。でも今日の天城さんの時は俺の喉が耐えられなかったけど」
美蘭が暫くの間説得をし、奏は渋々自身の技について話し始めた。
「天城さんに『波動』だって言われて思いついたんだ。全方位に波を出して振動を相手に直接伝える。吹き飛ばされた相手は振動による痺れと衝突のダメージに耐えなければ負ける。一撃必殺だよ」
「一撃……必殺」
説明を聞いた美蘭には、二つの情景が浮かんでいた。
母親が意識のあった頃。奏の能力が暴走して下半身が潰れた姿。そして今日、天城の四肢があり得ない方向に向いていた姿。
「ね、奏。その技、封印しよ?」
「は……は?何で?」
「ちょっと嫌なこと考えちゃった。もし使うとしても必ず手加減すること。全力で使っていい相手は奏が必ず倒したい相手だけ! 姉ちゃんと約束して欲しい」
もし奏が……自分の弟がまた母親の時と同じ悲劇を繰り返したら……その時は私も奏も後悔するだろうから。
「それに……喉も心配だし。約束してくれる?」
「……ああ、分かった。姉貴が何考えてるのかは知らないけど、約束する」
「ありがとう。もし今後奏にピンチが起きたら必ず私が助ける。だから私を信じて」
この時結ばれた約束。それは今後奏を蝕み、時には救い、様々な『運命』を辿らせることになるのだった。




