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大英雄の大罪人  作者: 親の顔よりみた小指
第六幕 邂逅・永逝につき
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第八十四話 あゝ、無情と希望の狭間を

「運命か……例えば木の成長が進むとか?」

 美蘭は目の前の木に向け手を突き出す。

「うーん……反応なしか」


 神話種『運命』を鍛える。そう決心したは良いが、美蘭には自身の能力について詳しく考えた経験が無かった。

 それ故に、能力の力はイメージ出来なければ引き出せないという基本的なことすら知らずに、大きな壁に突き当たっていた。


「………今までってどうやって能力使ってたんだっけ?それすら考えられなくなって来た……」

 以前までの美蘭は物を動かす程度の能力という認識だった。そのため、浮かせる、ぶつける、と言った簡単な操作で完結しており、『運命』を弄るのとは違い深く想像力を働かせる必要性が無かったのだ。


「あぁあ、頭痛くなって来た。頭もお腹も痛い……鍛錬って私向きじゃないな……」

 美蘭は一人で頭を抱える。

「………こんなの三日間じゃ出来っこないな」

と弱音を吐いていた所、一つの気配が美蘭の元へ向かっていた。


「………奏?」

「なっ、何で気づいたんだ?」

 美蘭の元へ向かう気配、それは目を覚ました奏の物だった。

「気配には敏感だからさ私………奏……喉腫れてる。痛くない?」


 美蘭が奏の喉に触れた瞬間、

「さ、触んなよ。やめろ!」

と言い、美蘭の手を跳ね退ける。


「な、何?どうしたの?顔真っ赤だよ?私何かした?」

「あ……姉貴さ、服はもう少し……ちゃんと着ろよ?」

 奏は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「うん?……あ、奏、アンタ私の服が透けてるからって恥ずかしいの?初心だね……このくらい姉弟なら大丈夫でしょ」

「う……うるさいな」


「はぁ、昔の奏はねーちゃん、ねーちゃんって言って抱きついてくれてたのに……大きくなって」

 

「うっ、うるさい! いつの話だよ。大体っ、カハッ」

 感情的になり声を張った奏は、血を吐いて美蘭の前に倒れ込んだ。

「か、奏?急に何?どうしたの?」

「ゔっ、の、喉が……いだい。声が……上手く出せない」


 奏は突然の痛みに喉を押さえる。そして絞り出す様に、

「ゔっ、姉貴、能力……鍛えてるんだろ?ゴホッゴホッ」

と言った。

「奏! 喋らなくて良いから! 休んでてよ!」

「時間ないがら………能力は……イメージが大事……だ…」

 そう言って奏は痛みから更に苦しみ出す。


「か、奏! これ……どうすれば……私に出来る事……私の能力を使えば……運命を操れば」

 痛みを和らげる………今の奏が"喉を痛がる運命"を辿っているのだとしたら、私の能力で"喉が痛くない運命"に変えられるかもしれない。


「でも運命を弄るのは今日一度も……それに運命ってそんなに単純なの?………それでもやるしかないか。"運命"を弄って痛みを抑える。……能力発動」

 美蘭は目を瞑り能力を発動する。


 目を瞑る。真っ暗な世界に入り込む。集中して純粋に奏の苦しみを減らしたい一心で能力を使う。その筈なのに、

「あぁ、何で! やっぱり上手く行かない!」

 

 美蘭が目を開くと、相変わらず苦しむ奏の姿が入る。奏の口からはヒュー、ヒュー、と掠れた音が聞こえていた。



「えっと、どうすれば……能力もダメだし……これじゃあ奏が……」

 ああ、頭が痛い、考える事が多すぎる。このまま倒れてしまいたい。

 どうせ天城の爺さんが何処かで見てるんだろうな。あの人なら奏の現状を治せるんじゃ?そんな風に考えてしまう。


 そういえば、奏が最後に何か言ってた気がする。とても大事な何かを。イメージ……そうだ。アイツは最後に能力にはイメージが大事って言ってた。

 私は、奏を治したいと思っている。ただ、能力は発動しなかった。………そうか。治った奏の姿を私は想像出来ていないんだ。



 木の成長促進。そんな事を言ったとしても既に大きな木がこれ以上成長した姿を私は瞬時に考える事が出来ない。

 人に対しても同じことなんだ。"治してあげたい"の一心ではその人が治った時の姿を想像出来ていない。


 "もし"出来たら。能力はそれでは発動しないのだ。未来にどう動き、どの様な姿になるのか。その道を作ってやらなければ能力は不完全のままで終わる。


 能力を強く使うには使用者のイメージが絶対なのだろう。イメージを膨らませるということは、能力も同時に無限の可能性を得るということ。

 私の場合は奏がどの様に治るのかという道を作らなければ不発で終わる。



 イメージを膨らませる……奏がどんな姿であって欲しいかを考えて道を作る。

「……もう一度、発動」


 その時、私は何かを掴んだ気がする。ずっと掴めなかった能力の根幹、真髄を。




「奏、大丈夫?」

「う、うん。な、何で治って?って何だよ」

「ちょっと心配だっただけ。しばらくこれでいさせて」

 ひと段落して、美蘭は奏を抱きしめていたのだった。

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