第八十三話 導きへの施し
「……発動、『鯨の聲』」
奏は大きく息を吸い、上に向け口を開く。無音、静寂が辺りを支配していた。
そんな静寂を破ったのは、人が落ちて来た音であった。
「ああ……痛ってぇな。人が折角考え事してたってのに、邪魔しやがって」
上空から落とされた天城。手足は円形を作る様に捻じ曲がっており、服には波紋状のシワが広がっている。ただ高所から落ちたという事だけでは説明が付かないダメージだった。
「これは……音……じゃねぇな。もっと自由な……『波動』ってとこか?」
天城は自分の手足を見ながら考えを巡らせる。
「ま、痺れて動かせねーしとりあえず治すか」
唯一自由に動かせる右腕。天城はそんな右腕を使い、手足の骨を折っていく。
「爺さん、何してるの。その腕一本で戦うつもり?」
天城の手足は殆どが機能を失っており、残されたのは右腕のたった一つだった。
「あーあー、ここからが本番なんだよ。……浄化」
天城の手からは途轍もなく強い光が発せられる。
「っ! 眩しっ」
美蘭はつい目を塞ぐ。
「敵の目の前で目を瞑るとは……随分な度胸だな、美蘭」
次の瞬間、美蘭の腹部には大きな衝撃が響く。
「グッ! いつ……の間に。動けないんじゃ……」
「俺は敵だぜ?思い込みで動くんじゃねェよ」
「………クッソ、振動が……ぁあっ……ゴホッ」
美蘭は膝から崩れ、嘔吐していた。
「さて、今日の所はこれでお終いかな。……浄化が使えるとは言え手足を折るのはやりすぎか?」
「……まぁだ、か、奏……が。残ってるだろ?」
美蘭は最後の力を振り絞り声を出す。
「美蘭、後ろを見てみろ。奏は最初の技を使うだけでノックアウトだ。……美蘭、あの技は奏にはしばらく使わせるな。あんなモン多用してたら喉が潰れるぞ?」
と、真剣な顔で天城は告げる。
「あぁ……奏……使えない姉で…………悪ィ」
美蘭の意識は少しずつ遠のいて行くのだった。
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目を開ける、まだ意識が朦朧としている。私、何してたんだっけ?確か天城の爺さんと戦おうとして……
「ぁあ! 痛ッ! お腹がッ」
あの爺さん……何て威力の拳を喰らわせやがる。
「奏……無理させた。……休んでて」
私は未だ倒れている奏にそう言い残して、砂浜へと歩み始めた。
海水で髪を纏め、顔を洗う。Tシャツを脱ぎ、海水で軽く濯ぐ。
水面には自身の黒き髪が反射している。
「……ゔっ、痛っ」
ズキズキとみぞおち辺りが痛い。痛みで現実に戻された様だ。起きてからずっとこうだ。
どうなってるか怖くて見れなかったけど……確認してみるか。
私は自身の体を確認する。自身の腹部、そこには拳状の痣がくっきりと残っていた。
「……これ……跡残るやつじゃん、最悪。服も汚くなっちゃったし………あの爺さんっ」
今後消えないだろう痣を付けられた事、お気に入りの服が自身の嘔吐物により汚れた事。美蘭はそんな怒りを天城へとぶつけていた。
「今のままだと爺さんには勝てないか………うん。戦い方を変えるしかない。奏にはこの島にいる間はもう能力を使わせたく無いし………あ」
考えているうちに、美蘭はとある発言を思い出していた。
「『運命』……私の本当の能力」
時間はまだあるし………能力を鍛えるしかないか。
美蘭は一人で納得し、能力の強化に臨むのだった。




