第八十二話 居候の海上旅行
「……もうそろそろ始めるか」
天城が如月家に住み始めてから数日が経過した。厳密に言えばただの居候であるのだが。
「爺さん……始めるって……鍛練をか?」
「テメェ等が強くなれば俺にも利がある。……頼むからちゃんと取り組んでくれよ?」
天城は数日間寝転んでばかりだった重い腰をようやく上げた。
「それで、天城さん。場所は?東京なんか戦うほど広い場所なんてどこにも無いよ?」
「そうだな奏。だが、都市で戦う筈もねェだろ?」
天城は一拍置いてから話を続ける。
「お前達がこれから行く場所は"南鳥島"だ」
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「うっぷ、あ、あのさ、天城さん。もう少しゆっくり丁寧に飛んで?」
天城は、二人を抱えて海上を飛行していた。高波や鳥との衝突をギリギリで避け、蛇行を続けていた。
「これ以上遅く飛んでたら島に着く前に日が暮れちまうだろうが」
「うぅ、爺さん、こんな飛び方してたら、酔っちゃうって、うゔっ」
「………はぁ……こんな時だけ団結かよ」
天城は空中で止まり、休息を取りながら再び加速を再開する。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った。ゔっ」
南鳥島、東京都に所属する日本の最東端。そんな場所に膝から崩れ落ち、口元を押さえる二人の人影があった。
「あ、姉貴。大丈夫か?天城さんの飛び方滅茶苦茶だったよ。……少し休んでても良いんだぞ?」
「だ、大丈夫。アンタもでしょ、奏。期限もあるから休んでられない」
砂浜の上で二人は会話を交わす。
「それじゃあ、行こうか」
「ああ、姉貴」
天城から告げられた目的、それはたった一つ。天城が首から下げている球を奪う事。協力しようが、能力を使おうが全て自由。期間は三日間である。
「ちゃんとついて来てね?奏」
「任せろ姉貴。ここまでついて来たのなら足手纏いになりたくない」
美蘭と奏は島の中心部へと進んで行く。
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歩み始めた二人の姿を上空から眺める男が一人。
「……ガキ相手ならまずは能力の知覚からさせるべきだったかなぁ」
人を鍛えるなんてモンは初めての経験だから……少し段階を端折りすぎたか?
珍しく天城が色々と思考を巡らせていると、
「やっと見つけた。奏、やって!」
と言う会話が薄らと聞こえてくる。
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「はぁ、はぁ、どこにも居ない! 何なのあの爺さん。逃げ足早すぎる」
「天城さんってば、そんなに奪われたくないのか?」
「散々ガキって言ってたんだし負けたくないんでしょ、きっと」
二人はそんな事を話しながら島の周りを殆ど一周していたのだが、天城との接敵は一度も無かった。
「もしかして……あれか?」
奏は空を見上げながらボソリと呟き、声に釣られ美蘭も辺りを見回す。
「……爺さん、空は流石に卑怯だよ。……やっと見つけた。奏、やって! 爺さんを上から堕として」
美蘭は耳を塞ぎ、その場に蹲る。
「姉貴……俺の能力の事、よく覚えてるな。……大声を出すのなんていつぶりだろ。発動」
そう言い、奏は大きく息を吸うのだった。




