第八十一話 無情で阿漕な良き仁義
ええと、まずは出来事を整理しよう。
俺が突然出会った天城さんは神話種という能力者を探していた。そして俺が天城さんに襲われていた光景を偶然姉貴が目撃、そのまま交戦に突入した。
交戦の結果、姉貴の能力が探していた神話種『運命』でないかと推測。うん、ここまでは理解出来る。
姉貴と俺を強くするために天城さんも一緒に住む事になる。これだけは何度脳を働かせても理解出来ない。
「なあ天城さん。アンタ本当にここで暮らすつもりか?」
俺は堂々と部屋の真ん中で寛いでいる爺さんに目を向ける。
「お前まだその事を気にしてるのか?美蘭と決めたんだ。奏、テメェを守れる様強くなりたいってな」
「なっ! 爺さん、それを言うなって決めたよな!」
美蘭が顔を赤らめながら天城の口を塞ぐ。
「………は?天城さん、それって……本当なのか?」
昔、五年ほど前、姉貴……いや、姉ちゃんはとある病室で騒ぎを起こした。
俺達の母親、と言っても俺は母親については殆ど知らないのだが。母親の目の前で姉ちゃんは激昂し俺に対して能力を使った。当時の記憶はあまり残っていないのだが、鮮明に覚えている事が二つ程ある。
母親と言われた女の異常な姿。そして、それをとても大切な存在の様に扱う姉ちゃんの姿だ。
身体の半身が潰れており、意識も無く、機械により生かされている存在。過去にどの様な事故に遭ったのかは何も聞かされていない。誰かに聞こうとしてもはぐらかされて終わってしまう。
その日、俺の発言がきっかけで姉ちゃんは我を失った。能力の矛先は俺に向けられ、暴走を始めた。
それ以来、姉ちゃんは塞ぎ込んで俺とあまり話してくれなくなった。
なのに、そんな姉ちゃんが俺を守る?姉ちゃんの反応から見ても天城の爺さんは事実を話しているのだろう。
だとしたら何故姉ちゃんは俺との関わりを減らしていたのだろうか。
「な、なあねーち、姉貴。何で俺を守るなんて事言ったんだ?」
「……か、奏。アンタは私がいたら嫌でしょ?ほら、昔だって葬式の時とか避けてたし」
「葬式って……いつの話だよ! 姉ちゃんまだあの時の事気にしてたの?」
「……まだって、いつまでも気にするよ! だって……だって、貴方は私の唯一の弟なんだよ?もう嫌なの。自分の能力で人を傷つけるのも、自分の目の前で家族を失うのも、全部嫌! ……ぐずっ……ううっ」
消え入る様な声。その後しばらく、部屋に響く音は美蘭が鼻を啜る音だけだった。
沈黙。その沈黙を破るのは一人の声であった。
「さて、奏も美蘭も納得が行ったか?」
「天城……さん?」
「美蘭……お前な、流石に口下手すぎるぜ?守りたいモンは直接守れ。俺は過去の事はあんま知らないけどな、直接ぶつかり合って伝えないと想いは伝わらないモンだぞ?」
「……う、うん」
「それじゃあ、二人ともこっち来い」
天城は奏と美蘭を抱き抱えて気持ちを吐露する。
「奏、美蘭、お前ら二人は姉弟なんだ。この世界に唯一無二なんだ。同じ関係の人間は一人としていない。だから互いを大切に生きろ」
天城の瞳からは、たった一粒だけ水滴が落ちる。
二人が落ち着いた頃、天城は立ち上がり声を上げる。「良し! 二人とも納得が行ったんなら鍛えてやる。まず最初に言っておこう。………俺の目的は自分と渡り合える能力者を見つける事だ。だから強いって噂の神話種を探していた」
そして天城は二人に対し指を指す。
「まあつまり、俺が鍛えるんだ。どうせなら最強を目指そうぜ?美蘭、奏。俺より強くなってくれよ?」
その日から、奏と美蘭のたった二人だった如月家に笑い声が響く様になったのだと言う。




