第七十五話 慶
今より三十五年前・能力の出現より五年前
東京のとある家に一人の娘が生まれる。
両親はその娘に対して、『美蘭』と名付けたのだった。
今より三十一年前
「ママ!おはよう!」
「あら、おはよう美蘭」
「………パパは?」
「パパはいつも通りお仕事よ。そんなことより美蘭、幼稚園までもうすぐだし、ご飯食べましょ?」
「……うん」
美蘭の父はこの頃、中々家に帰らない事が多かった。仲睦まじい夫婦とは言い難く、父親が家に帰ると夫婦喧嘩が起きる事も多かった。
『……続きまして、先週に引き続き各国の首都にて大規模な異常気象が発生しております。この件に専門家は……』
テレビからは最近の異常気象についてのニュースが流れていた。
「物騒ね。最近は地震なんかも増えてるって言うし、何かの前兆かしら。美蘭は私が守ってあげるからね」
「ママ、いじょーきしょーってなに?」
「……ふふっ、美蘭には敵わないわね」
二日後、この日は珍しく父親が家に帰って来た日だった。
「は?給料はもう全部使った?家の事はどうするのよ」
「………俺が稼いだ金なんだからどう使おうが俺の勝手だろうが」
またけんかしてる、もっと仲よくすればいいのに。
すると、父親が母親の顔を叩いた。
「痛っ!」
「俺の金にごちゃごちゃ言ってるとまた"こう"だからな。素直にしてろよ」
そう言って父親は家を出る行った。
「ママ……だいじょぶ?」
「美蘭……あなたは私が守るから。あんな人に頼らないでも私が何とかするから………だから大丈夫よ」
「………う、うん」
母親が大丈夫と言ってくれた安心感。その中には美蘭本人には気付けない様な恐怖の感情が紛れていた。
最近、母親との家での暮らしが変わった。食べる物も豪華になり、美蘭が欲しい物も不自由なく飼う様になった。
ただ、変化はそれだけでは無かった。
「ママ、きょうもいないの?」
「うん、ごめんなさいね美蘭。ママお仕事があってね、夜は忙しいのよ」
「でもママおしごとなのにオシャレだね!」
「ふふっ、そうよ?オシャレしないとお仕事にならないもの」
母親は当時の美蘭から見ても派手な格好に派手なメイクで出掛けていた。子供ながら母親は何かを自分に隠しているのだろうと美蘭は薄々感じ取っていた。
「ママ……食べないの?」
「……大丈夫よ。ママ最近お腹いっぱいでね、ご飯あまり食べられないのよ。だから心配しないで」
「………うん」
ママ、おかおまっさお。ちょうしわるいのかな?
「…………うっ」
「どうしたの?」
「大丈夫よ、ちょっと吐き気がしただけ」
数週間後、父親が帰って来た。その日の喧嘩は過去類を見ないレベルで長く、激しかった。それ以降、美蘭の父親が家に帰って来ることは二度と無かった。
「ねぇ美蘭、貴女に大事なお話があるの」
「なに?ママ!」
「貴女に"弟"が出来るわよ!」
以前美蘭が感じていた『異常』は前よりも大きくなっていたのだった。
どもども、親の顔よりみた小指と申します。今話より如月美蘭の過去編をやろうと思います。話数はそこまで多くない想定なので、付き合って下されば幸いです!




