第七十四話 犠牲者アリのハッピーエンド
俺達は凛の治療をする為に、保健室へと来ていた。すると中から、
「嫌だ!足なんて切りたくない!」
と駄々を捏ねる様な叫び声が聞こえて来た。
「し、失礼しまーす。一体何の声………はあ?桐乃?」
「げっ、光……さん」
保健室の中には桐乃と有馬、そしてオリヴィアと一人の先生がいた。
俺と目が合った桐乃はバツが悪そうに目を逸らし、有馬の後ろに隠れた。
「……何でお前達二人が居るんだ?内通者じゃ無かったのか?」
「えっと……それは」
「そうだよ。この二人は内通者"だった"」
隠れてしまった桐乃の代わりにオリヴィアが返事をした。
「色々訳あって結局また寝返ったんだってさ。そんなことより光君、怪我は無かった?」
「あ、ああ、そうか。ありがとうなオリヴィア。俺は大丈夫だぞ」
内通者の事をそんなこと扱いとは……何とも滅茶苦茶な奴だ。
「あ、そうだ。凛を早く診せないと。こいつ死にかけだったんだ」
俺が思い出したかの様に凛の名前を出すと、
「ああ、月島さんならもう治療を始めています。安心しなさい」
と言う声が背後から聞こえて来た。
「……っ!誰!」
俺が背後に目をやると、一人の老婆が立っていた。いや、とても整った服装に若々しく見える顔。本当に老婆と言えるのだろうか。
とそんな事を考えていると、
「お、天狐の婆ちゃんじゃんか。元気だったか?」
と先生がまるで友人であるかの様に言った。
「……ゴホン、美蘭君、君は学生の頃から何も成長してないのですね」
と天狐の婆ちゃんと呼ばれた人物は言った。
「……改めまして、現在代理で校長を務めております。七瀬天狐と申します。さて、やはりまた会いましたね、桐乃さん」
「………はい」
寝返った分気まずいのか、桐乃は天狐の顔を真っ直ぐに見れずにいた。
すると、沈黙を破る様に、
「あ、そうだ。天狐の婆ちゃん。五人ほど今日で学校を辞めさせて私の手伝いをやらさせてほしいんだけど……良いよな?」
と美蘭が言った。
「…………美蘭君、君は一体何を?」
「ああ……そうだな、光、亜門、晴人、有馬、桐乃。この五人は今日限りで学校には来ないって事で。婆ちゃん、よろしくな?」
天狐はそれを聞いて本当に呆れた様に頭を抑えながら、
「はぁ、そうですか。美蘭君の事ですから……何か理由があるんですよね?貴方の行動に今更言及する気はありませんが………あくまでも彼彼女らは子供です。無茶はさせないように」
と釘を刺した。
「任せてくれ、天狐の婆ちゃん。奏の様に全力で守るさ」
その言葉を聞いて少し納得したのか、天狐は優しく笑みを浮かべた。
「えっ………ゔ、嘘でしょ」
覚束無い足。ボロボロの身体で起き上がって来た凛が、いつの間にか美蘭の話を聞いていたらしい。
凛とオリヴィア、この二人は美蘭の話を聞いてから暗い顔が続いていた。
天狐はそんな二人を片目で見てから、
「さて、この五名は本日を以て我が学園を去ります。話は変わりますが……今回の襲撃で我が校は二人の教師を失いました。それを以て我が校は、三ヶ月ほど臨時休校とします。Aクラスの諸君は、各々好きになさい」
と言った。
「「えっ!」」
突然の休校宣言に凛とオリヴィアは驚きを隠せずにいた。
「ねえ光君……ボク達も連れて行ってくれないかな。美蘭さんの場所に」
「オリヴィア様の言う通りだよ。私達もいた方が絶対に戦力になるよ」
こいつら……突然売り込んで来やがった。……まあ俺の返事は決まってる。
「良いんじゃないか?なあ先生よ」
「ああ、私もこの二人を何とかして連れて行こうと思っていた所だ。婆ちゃん、感謝するぞ?」
神話種狩り『β』との戦い。俺達は今回新たな戦力を手に入れて終わった。
だが、完全勝利とまでは行かなかった。如月奏。もう二度と奴らとの戦いに犠牲は出さない。戦いに臨む者はそう心の中で誓いを立てるのだった。




