第七十三話 感謝と喪
一通りの戦闘が終わり、校舎内に静けさが訪れた時、美蘭は体が痺れて動けないでいる明を引きずりながら廊下を歩いて他の仲間を探していた。
「ん?バルバトスとアモンじゃないか。ちゃんと生きてるか?」
「あ、美蘭さんに明。良かったよ、無事だったんだね」
それを聞いた美蘭は少しだけ得意気に、
「勿論、私達の相手は二位の増長って野郎だった。ま、私が余裕で勝ったがな」
と言った。
「……先生、一回攻撃喰らって鼻血出してただろ」
「黙れ、明」
「ぐおっ」
先生はいきなり俺の脇腹を殴って来た。まだ満足に動けないってのに。
「さて、それじゃあ皆で凛ちゃんと先生のとこに向かおうか。あ、そうだ美蘭さん。二人ほど美蘭さんの手伝いとして雇って欲しいんだけど……大丈夫かい?」
「ん?どうした急に。別に構わないぞ?暗達の仕事が無くなるだけだしな」
「ありがとう。全部終わったら詳しく教えるよ」
そして、俺達は如月先生と凛のいた場所まで向かうことにした。
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「うわ、何ここ。滅茶苦茶な惨状だね」
バルバトスが最初に口を開く。
凍てついた床や壁。それに激しく崩壊している場所も多い。中には今も尚振動を繰り返す場所もあった。
「………この振動、奏の能力だ。近くにいるはずだ。よしお前ら、探………せ…………、奏?」
美蘭がふと背後を見ると、身体中に傷があり、氷の中に閉じ込められていた弟の姿があった。
「せ、先生!早くここから出さないと!」
「バルバトス、離れてください。私の炎で溶かします」
生徒が助け出そうと瞬時に動き出す中、美蘭は一向に動こうとしなかった。
「………やめろ、アモン。もう手遅れだ。奏は死んだ」
「は?何言ってるんだ先生!まだ助かるかもしれないだろうが!姉ならアンタだけは諦めるなよ!」
俺は先生の消極的な姿勢につい声を張り上げてしまった。
「………なあ明よ。『運命』ってのは嫌な能力だよなぁ。もう助からないんだ、何をしたって希望はないんだって嫌でも分かっちまうんだから」
「先生?何を……」
「見えないんだ。………もう奏の運命が見えないんだよ。まだ蘇生が間に合う場合ならちゃんと助かる運命が見える。だけどな……奏にはもう生者としての運命は無い」
先生は目を瞑りながら、
「奏はな……死んだんだ」
と言った。
「明……もう行こう。凛を探さなければ」
「え、でも先生、もう良いのか?」
「ああ、私が悲しむのは全てが解決してからだ」
「…………そうか」
察してしまう。自分のいない場所で呆気なく弟を失ったという衝撃、その感情をβに向けることで考えない様にしているのだろう。
「やっぱ強いな……最強は」
「ああ……誰に言ってやがる」
先生は再び俺の脇腹を殴る。そこには先程とは違い、全く力が籠もっていなかった。
俺達は凛を探すために周囲を見渡す。ちょうどこの辺りの廊下は複雑に入り組んでいる場所であり、発見までに少し時間が掛かった。
「あれ………もしかして凛さんですかね?」
アモンが指を刺した場所には倒れている凛の姿があった。
「おい!凛!生きてるか?」
俺はすぐに凛の元へと駆け寄る。呼吸が弱々しい。それに……
「つ、冷たい」
体がとても冷たい。このままじゃまずい。先生だけでなく凛までもが……
「アモン!火を!コイツに熱を!」
「は、はい。任せてください」
「ゴホッゴボッ……うぅ、光君?」
「おい!大丈夫か?何処が苦しい。誰にやられた!」
俺が凛を支えながらそんな事を言うと、
「かひゅ、はぁ、私……やったよ?晶……倒したから。先生の仇……取ったから…………っあ」
伝えたい事は終わったのか凛は意識を落とす。
すると、先生が追いついて来たのか、凛の元へと駆け寄り、
「良くやってくれた。そして良く生きていてくれた。凛、それにお前らも。私達大人について来てくれて、ありがとう」
と珍しく心からの感謝の意を告げながら凛の頭を撫でていたのだった。




