第七十一話 砕ける
「僕は天華ちゃんの居場所を知ってる。天華ちゃんは無事だよ」
「…………え、天華?」
桐乃は突然戦意を失ったかの様に落ち着いた。
「何でその事を知って…………いや、それ本当なの?無事って」
「うん、それは信じて欲しい。恭介君からも桐乃先輩と天華を頼むって言われてるんだから」
バルバトスは桐乃に対して手を差し出す。
「晴人……嘘………何でその名前を」
桐乃は色々な事が同時に起きすぎていて感情がぐちゃぐちゃになっていた。
「あと言っておくけど……有馬君は生きてるからね?」
「え、嘘………だってあんなに血が出て……る」
桐乃が上を見上げた時、既に有馬の傷は塞がっていた。
「早とちりだったんだよ……桐乃ちゃんはもっと落ち着きを持たないとスパイできないよ?」
「…………ごめんなさい」
桐乃は気まずさを一番に感じていた。
「校長先生に感謝しなよ?」
「え、校長?」
「そう、βに関係のない生徒に殺しはさせないって言って能力で治したんだ。そのせいで校長先生はしばらく寝込むことになりそうだしさ」
「そ、そう。…………ねぇ晴人。私と有馬君ってこれからどうなるの」
「うーん、二人で仲良く美蘭さんの雑用係とかどうかな?」
バルバトスは笑いながら桐乃の方を見る。
「βにはもう戻れない……かな」
「桐乃ちゃん、君の過去は大体知ってるつもりなんだけど……どうして君はβに居続けているの?」
桐乃は驚きと不気味さの両方を感じながらも会話を続ける。
「どうして私の……私達の過去を知っているのかは今は聞かない。だけど………私達の過去を知っているのなら人形も知ってるんでしょ?全ての元凶は奴よ」
「人形ってあの女の子かい?」
「女の子って……本当に過去を見て来たかの様な口ぶり。今の人形は中年の男の身体を使っているの」
「身体を使う?それってどういう……」
ドンと大きな音が建物中に響き渡る。
「ああ、この話は後で聞かせて欲しいな。美蘭さんと明が二位を倒したってのに、まだ敵が残ってたよ」
校舎の壁に少しずつ氷柱が作られて行く。
「晶様……いや、序列七位・晶がいるからね。あの人は本気を出せばβの序列なら四か五位レベルの実力があるから……誰が戦ってるのか知らないけど、その人死んじゃうかも。」
「まさか、あの先生だよ?そう簡単には負けないよ」
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「はぁ、はぁ、キリがないな……」
「如月奏。大技は使い切ったのか?どんどんつまらなくなってるぞ?」
再び展開された氷上の戦。如月は体力切れからか対応力が段々と下がっていた。
「月島!あんまし前に出てくるなよ?巻き添え喰らっちまう」
「…………はい」
如月先生は私を頼ってくれない。自分の生徒だからだろうけど……あんなに自分がボロボロなら頼って欲しい。
「如月奏、お前との戦いはもう踊り飽きた。そろそろ終わらせよう。『砕氷の終幕』……如月奏よ。どう耐える?」
晶は両の手を合わせる。
「な、何だ……何の準備を…………」
瞬間、細かく鋭い氷の破片が晶を中心にとてつもない速さで放出された。
「あっ、マズい」
如月は瞬時の判断から凛に覆い被さる。
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「うぅ、ゴホゴホッ、何が起きて………先生?」
凛は目の前にとてつもない量の血が垂れていたことに気づいた。
「はぁ、少しは……加減………しろよな」
そう言い残して如月は体の力が抜けて行くのだった。




