第七十話 大好き
「はぁ、はぁ、大丈夫か?桐乃」
「………うん。ねえ有馬君、さっきの泥人形って何だったの?」
有馬は桐乃を背負いながらアモンから逃げていた。
「え、聞いてなかったのか?人形さんが新しく作った兵器なんだってよ。晶さんが『召喚』の武器として使えって」
「………そ、そう」
「どうかしたのか?震えてる」
桐乃は人形という名前が登場してから震えが隠せずにいた。
「んっと、人形様が少しトラウマで………ごめん、ちょっとぎゅってさせて」
「えっと……桐乃?」
「んん、温かい」
桐乃はまるで子供の頃に戻ったかの様に有馬を抱きしめた。
「………桐乃さん?もう満足した?早く逃げないと、亜門達が追ってくるから」
「あっ、そうだよね……ごめん、あはは」
二人の間には若干の気まずい空気が流れていた。
「桐乃、お前に何があったのかは知らない。だけど、ここで勝ったらこれから少しずつでも教えて欲しい。……良いか?」
「…………うん」
有馬がふと辺りを見た時、既に校舎の端まで逃げて来ていたことに気づいた。
「なあ桐乃。もうここから逃げないか?」
「え?……確かにここで逃げちゃえば…………で、でも、そんな事したらβの上の人達に何て言われるか……」
「βからも逃げちまえば良いんだよ。そしたら全て解決だろ?」
有馬は得意げに笑みを浮かべた。
「…………分かった、有馬君。一緒に逃げよ」
「上手く逃げれたら、桐乃……お前に伝えなきゃいけないことがあるんだ。ずっと伝えそびれてたからな。ちゃんと話したい」
「はいはい、上手く逃げれたらね。ふふっ、期待してる」
「よし!」
「行くぞ!桐乃!外に出たら一気に影で遠くまで離れる。ボロボロの身体でも二人分を影の中に入れることくらいできるだろ?」
「全く、有馬君は満身創痍の人に無茶させるんだから。任せて!」
二人は校舎の壁を突き破って飛び降りた。
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二人は気づいていなかった。校舎の壁には木の根の様なものが張り巡らされていた。
「お、来たね。ボクだけ出番無しかと思ったよ。『妖精』発動……裏切り者を貫け」
次の瞬間、有馬の肩を木の根が貫き、壁に磔にした。
「えっ、有馬君?」
有馬の意識は落ちていて、肩からはドクドクと血が止まらなかった。
「そんな!やめてよ!逃げようって言ったじゃん!伝えたいことって何………教えてよ」
桐乃の悲痛な叫びは有馬に届くことなく、桐乃は勢いよく高度を落として行く。
「どうして、オリヴィア!何でそんなに慈悲もなく人を殺せるの!」
桐乃は影を使い顔を出した状態で校舎の壁に身体を潜り込ませた。
「……どうして?なら君達βはどうして罪もない大勢の生徒を犠牲にするなんて考えが出来るの?」
「それとこれとは………」
「話が違う?そんな事無いんだ。君達に正義がある様に、ボク達は今ここで君達βを滅ぼすのが正義なんだよ。だから、桐乃……お前は今ボクが倒す」
オリヴィアが飛びながら両手を天に掲げる。すると、周囲の木の根が一斉に動き始める。
「君に好きにはさせない。光君から託されてる物があるんだ。君のためにね」
オリヴィアは桐乃に向けて銃を構える。
「本当に……彼何者なんだろうね。こんな物持ってるなんてさ。『光槍』だったっけ」
オリヴィアが引き金を引くと桐乃の目の前に着弾する。そしてとてつもない光を放つ。
「ま、まぶしっ、何これ」
「光君。これで良いんだよね。桐乃が能力を使えない様に周囲の影を全て無くす。それにしてもまさかここまで光が強いとは思ってなかったよ」
オリヴィアがトドメを刺すために木の根を桐乃に向ける。
「さよなら。…………桐乃」
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トドメとしてオリヴィアが向けた木の根は突然、謎の火球により焼き払われた。
「なっ!炎?亜門ちゃん、どういうつもり?ここでトドメを刺さないと逃げられる!」
「大丈夫です。もうバル……晴人が向かってますから」
「ねえ桐乃ちゃん、聞こえてるかな?」
「え、は、晴人?何で突然」
バルバトスは桐乃が止まっているいる校舎の内側から声を掛けていた。
「こっちも突然で悪いんだけど……休戦しようよ。というか出来ればこっち側に着いて欲しいんだけど」
「よくその態度で居られるね。お前達は有馬君を殺した!」
桐乃はバルバトスに対して拳を構える。
「うーん、少し早とちり……まあ良いか。一つ、君にとって良い情報がある」
バルバトスは罪悪感を感じながらも話を続ける。
「………情報?どうして突然……」
「僕は天華ちゃんの居場所を知ってる。天華ちゃんは無事だよ」
「…………え、天華?」
桐乃はその名を聞いた途端に拳を下ろしたのだった。




