第六十九話 幸せだったこの世界
「晴人さん……泣いてますか?」
「え、僕泣いてた?しまったな、そんなつもりじゃ無かったんだけど」
「それ、涙ですよね?」
「あはは、恭介君は昔から人のことをしっかりと思える良い子だね」
「え、昔って……さっき初めて会いましたよね?」
恭介は不思議そうに首を傾げた。
「さて、六人とも、大事な話があるんだ」
バルバトスは突然真剣そうな顔に変わった。
「僕は恭介君の記憶を全て見た。恭介君本人でさえも忘れている記憶すらだ。そこで皆に伝えなきゃいけない真実がある」
「晴人さん?一体どうしたんですか?」
真剣さを感じ取ったのか、バルバトスの元に六人が集まり話を聞いた。
「君達は………もう……死んでるんだよ」
「……え?何言ってるんです?気でも狂って……」
「……人形、だろう?君達の敵は」
「に、人形……何でその名前を……」
「思い出したかい?君達の最期の記憶を。今の君達は人形に無理矢理動かされている死体。誰彼構わずに不幸を振り撒く存在だ。自由にはさせられない」
それを言われた恭介は真っ青な顔になってバルバトスを睨む。
「アンタもかっ!アンタも俺達の命を狙うのか。どうしてお前達は俺達家族の絆を引き裂くんだ!信用させて全てを壊す。人形と……研究所の奴らと同じだ!」
これは、混乱している。無理もないか。自分が実は死んでいたなんて。
「悪いけど……このまま好きにさせるわけにはいかない。君達が家族な様に、僕にも家族がいるんだよ」
バルバトスの最後の家族という言葉に恭介はピクリと反応した。
「……………晴人さん、アンタの家族って良い奴か?」
「そうだね、本当の家族じゃないけど、皆僕のことを認めてくれる尊敬できる人達だよ」
「そうか…………ごめん、研究所の奴らと同じとか言っちゃって……ちょっと感情的になりすぎた」
「フフッ、それは君が仲間のことを思っている証拠だろう?やっぱり昔から変わってないんだね」
「……さっきからその昔ってのやめてくれよ!知らない間に過去を全部見られてたなんて……恥ずいだろ」
「あはっ、それもそうだね。………恭介君、もう良いかな?」
「うん、晴人さん。覚悟は出来たからさ、俺達の人形への復讐を頼んでも良いかな?」
「ああ、任せてよ」
バルバトスは恭介を安心させる様にピースサインを送った。
「あとさ、最期にバルバトスって呼んでも良いかな?」
「えっ、僕の名前……どうやって知ったの?」
「さっき晴人さんが能力を使った時、少しだけど晴人さんの記憶みたいなのが流れてきたんだよ。まさかバルバトスなんて名前だったとは、意味はよく分からないけど」
「そうだよ。僕の親代わりの人からもらった名前なんだ。これは僕の宝だよ」
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「それじゃあ、恭介君。覚悟は良いよね?」
「ああ、ここにいる皆同じ考えだよ」
「ありがとう。それじゃあ、僕は現実に戻って君達を終わらせる。……その前に、恭介君以外とも喋ってみたかったんだけどな」
他の五人は終始言葉を喋らなかった、が最期に再び笑みを浮かべた。魂がすり減っているのだろうか。恭介君以外はもう話すことすら叶わない。それでも僕の言い分を理解してくれて、命を投げ打つ覚悟を見せてくれた。
君達がくれた情報は、全て無駄にしない。
十四歳の子供に命の選択を取らせる。なんて極悪非道だ。これほど僕が強く同情を覚えることになるなんて思いもしなかった。
人形は僕が殺す。
僕の目は覚める。何とも長い旅をしてきた気分だが、現実の時間だとほんの一瞬の出来事だった。
一瞬の出来事。そのはずなのに目の前の泥人形は完全に動きが止まっていた。
死者が精神力で人形の能力の支配に打ち勝った。今の状況は簡潔に言えばそんなところだろうか。
「泥人形……もう二度と、こんなものは使わせない。改良型ロビン」
次の瞬間、僕の矢は泥人形の心臓を貫いていた。
泥人形が崩れていく。
崩壊していく泥人形からは「ありがとう」という言葉が聞こえて来た様な気がする。
「これで……本当にお疲れ様。恭介君、皆」
バルバトスはアモンが走って行った方向を眺めながらそんな事を呟くのだった。




