第六十七話 幸せなこの世界 其のニ
西山恭介という少年。
彼は生まれの記憶は無い。物心ついた時から彼の視界は壁に塞がれていた。
彼は赤ん坊の時、研究所に拾われたのだ。
五歳の頃、彼に能力が覚醒する。研究所はそれを好都合と思ったのか彼の研究を始めた。
研究所には西山恭介を含めて八人の子供がいた。元々はもっと人数が多かったのだが、いつの間にかいなくなっていた。……僕の予想では能力が開花しなかった者は切り捨てられ、中でも能力の開花した優秀な八人を実験台として選別していたのだろうと思う。
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「西山、勝手な行動は慎めといつも言っているだろう。問題を起こすのはいつも決まって貴様と良太だ。変な気を起こそうとするなよ?」
「…………はい」
これが恭介の日常だった。
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昔は施設の人との関係は良好だった。良好だったのだ。だが関係が崩れたのは突然だった。βの序列十位・人形。突然そう名乗る女の子が現れた。外見は自分達と同年代の様に見えるその女の子は突然現れて恭介らを指差し、「貴様らは実験体だ。私の人形となり、兵となり、βのために貢献しろ」と言った。
「βの兵となり貢献する」当時その言葉自体は嫌ではなかった。全員が拾われて育てられたβに対して恩があったからだ。だが、人形が現れてから施設はおかしくなった。いや、人形のせいもあるだろうが数年前に起きた旧都の災害も多少は影響しているのだろうか。
「おい実験体、何勝手な事してるんだ?」
「はあ?どうしたんだよ職員のおっさん。俺は恭介……」
「………黙れ。貴様の存在意義はその能力だけなのだ。勝手な行動はするなよ?」
「…………ああ」
恭介は反抗することが出来なかった。と言うよりも当時の恭介にとっては失望という感情に近かった。
恭介らは自由に動くことが出来なくなった。また、研究のため身体検査を受ける回数が増えたのもその頃だ。
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「西山、突然だが人形様より知らせだ。命の保証のない実験を行うのだが、被験者を貴様ら八人に決めたとのことだ。実験は明後日、覚えておけよ?」
「は?………おっさん、それって俺達に死ねってことか?おっさん、俺達に思い入れなんて無かったのか?」
「…………ああ、もう黙っていろ西山。実験のことを全員に伝えておけよ?」
「…………」
恭介は言葉が出なかった。突然厳しくなった職員ではあるが、ついに俺達の命すらもどうでもよくなったのかと頭の中で思考が完結しなかった。
「……え?それ本当なの?恭介」
「うん、桐乃先輩、俺達はもう死ぬしか無いのかもしれない」
もう嫌だ。信じられるのは皆だけだ。施設の人は俺達の事をただの実験体としか見ていない。
まともに思考が働かなくなった頃、俺達の中で最年長だった桐乃先輩が、
「ねえ皆、この実験ってさ、絶対死ぬわけじゃないんだよ。だから希望をもと?」
と励ましの言葉を言った。
「……あ、そうだ、皆、中学校って知ってる?研究所の外には私達くらいの年齢の子が学ぶための場所があるんだって。この実験を皆で生き残ってさ、行ってみようよ」
研究所の外の世界。俺達はそこに希望を抱いて全員で実験を生き残ろうと決めた。その時は全員一時的に明るくなって笑顔も出てきた。
二日後、俺達の身に何が起こるかも知らずに。
「さて、今日が前伝えた実験の日だが、貴様ら、幸運に思えよ?人形様が直接手術して下さるとのことだ。一人ずつ施術をするとのことなのでな、奥の部屋に進め、まずは貴様だ良太」
「……は、はい」
人形による手術。それが終わって部屋から出てきたのは手足が少しずつ溶けている良太の姿だった。




