第六十一話 冷気
「……多聞殿の考えには常に賛成しているが、建物は壊さずに奪えとは……中々賛同し難いな。この程度の学校など、すぐに破壊できると言うのに」
如月達と晶が戦いを始めた頃、校舎の反対側にはただ一人廊下を闊歩する者がいた。
「何ともまあ静かな場所だ。………人の気配か」
「歩くのをやめなさい!あなたにはここでやられてもらうわよ!テロリストめ!」
男が振り返ると強気な女が一人立っていた。
「風貌からして………この学校の教師か?私に挑んでくるとは…………よほど自分に自信があるのか、もしくは相手を測れない弱さ故か。まあ、どちらでも大して影響は無いか」
男は片手を天に掲げる。
「さて、言い残すことは?」
「はァ?あなたは、一体何を………」
ピチョンと静かな空間に音が鳴る。
教師は全身から血を流していた。
「もう何も感じないだろう?目も見えない、耳も聞こえない。そんな空間でゆっくりと脳が機能を停止していく。………最後に伝えておこうか、私はβの序列二位、増長だ。…………既に聞こえていないか」
男は冷徹に、されど表情には笑みを浮かべて先に進んで行く。残された教師は虚無の中薄れゆく意識に、死を実感するのだった。
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「はぁ、はぁ、はぁ」
「息が上がっているな、如月奏よ。この冷気の中は呼吸するには大変だろう?」
「……うっせ」
明らかに如月先生の動きが鈍ってる。晶の言う通り、晶の能力範囲内での戦いが続いているから不利なんだ!
それに………
「喰らえッ!」
「フン、そんなものか?如月奏よ」
「………またか」
これだ。攻撃の度に如月先生は凍らされてる。その度に高出力の能力を使っているのなら、余計に体力を消耗するに決まってる。
………私じゃ如月先生の力になれない。如月先生は大丈夫そうに振る舞ってるけど、私は足を引っ張っているだけだ。
「如月先生!私に構わずに能力を使ってください!」
「あぁ?今の時点で既に構ってなんか……」
「あの時私達に使ったでしょう?全員を吹き飛ばしたような力強さを、私に気にせず使ってください」
「くっ、どうなっても知らないからな」
如月は両手を前に出す。
「鯨の聲」
「何だ?『波動』の技か?所詮は氷を割るのが限界な能力だろう?その程度で何ができっ、なっ!」
カシャーンという音が鳴った。
それは晶が能力の効果範囲から吹き飛ばされて地面の氷が割れていく音だった。
「ぐはぁぁっ………」
晶は壁を突き破って遠くまで飛ばされていった。
「す、凄い。凄いです先生。こんなにあっけなく勝つなんて」
「ぐっ、ガハッ、ゴホッゴホッ」
如月は血を吐いて地面に膝をついた。
「………え?先生?だ、大丈夫ですか?」
「くっ、舐めてたな。あれじゃ倒しきれなかったか。ゴホッ、おそらく奴の氷による冷気は吸い込むだけでダメージが蓄積されるんだろう。………俺はさっきの一撃で肺を酷使しちまった。お前も気づいてないだけで危険な状態だ」
「え、え?そんな……如月先生!」
「月島………奴はおそらく戻ってくる。早く……逃げろ」
如月は血を吐きながら力が抜けたように地面に倒れた。
「如月先生………あなたを見捨てたりはしませんから」
凛は如月を担いで逃げて行った。




