第六十話 氷上
「………人の気配がほとんどない」
有馬と桐乃が裏切ったことで生徒の避難がすぐに終わってしまったのだろうか。だとしたら、
「つまらないな。戦えないのなら私も来た意味が……」
とそんな事を考えていると、
「つまらないなら相手をしてやるよ」
と声が響いた。
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「お前、見覚えあるな。どっかで会ったか?」
そこにはこの学校の教師では一番強いだろうと思われる男が待ち構えていた。
「さぁな、私はお前のことを知っているが。その感じ……如月奏だろう?」
「………全く、有名人ってのは苦労するな」
如月は厄介そうに髪を掻いて向き合った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
如月先生と相対した時とは全然違う!別の種類の恐怖だ。これが命のやり取りをする時のプレッシャーなの?
よく分かった。すぐにこの空気に慣れないと死ぬんだ。
「大丈夫か月島。無理するな」
「……先生、私は気にしないで下さい。役に立ってみせますから」
「…………そうか」
「如月奏よ。その子供は何のために連れているんだ?戦闘の邪魔だろう。今なら見逃してやろうか?」
「いんや、結構。さあ始めようか?」
如月が言い終えたら途端に目の前の女が、
「能力発動、『氷上の戦』開戦」
と言った。すると、その女を中心とした大規模なスケートリンクのようなものが形成された。
「私はβの序列七位の晶。さぁ、貴様らはどう戦う?」
晶はどこか含みを持ったように笑みを浮かべた。
「うぅ、寒っ。先生、大丈夫ですか?ってえぇ!早っ!」
如月は能力をものともせずに殴りかかっていた。
「はあっ!」
「全く、せっかちだな」
晶は如月の拳を受けながらも笑みを浮かべた。
「何っ?効いてねえのか?」
「さぁ、どうかな?」
晶は笑みを崩さずに一歩ずつ後ずさる。
「舐めやがって、ぐっ、何だ?腕が!」
如月が殴りかかった方の自分の腕を見てみると、氷に覆われていて、一切の自由を封じられていた。
「如月奏よ、どうだ?私の能力は。気づいたか?お前の拳が当たる直前に氷漬けにしたんだ。どんなに強い攻撃でも当たらなければどうと言うことはないからな」
「クソが、氷か。面倒な能力だな」
「戦いを楽しむためにはお互いの能力を知らなければだろう?如月奏よ。せっかくだ、教えてやろう。私の能力はな『氷晶』だ。氷を自在に操れる。効果範囲は……」
晶は足元を指差し、
「このリンクの中だ」
と言った。
「このリンク……ね。面倒くさい。じゃあ俺も教えてやるとするかな」
如月は氷漬けにされた腕を晶の方に向けて、
「………発動」
と呟いた。次の瞬間、自由に動かせなかった腕の氷が次々と割れて行く。
「俺の能力は『波動』だ。氷に波動を当てて割る。俺が出来るのはそれだけだ」
と言った。
「波動……それが先生の能力………」
だとしたらあの時の、島での戦闘で私達を一斉に吹き飛ばしたのもその能力、って事かな。氷が割れるのなら先生にも勝機はある。私の能力は凍らさせちゃうから使えない。だから先生が勝つのを祈ろう。
その時、凛は如月の息が上がっていることに気づいていなかったのだった。




