第五十九話 再来の影
「晶様、参りましょう」
「おお、桐乃よ。やる気だな」
「はい、それで……私が影で送り出すのは本当にここにいる四人だけでよろしいのですか?」
そこには桐乃と、晶、有馬、そしてとある男一人が立っていた。
「ああ、これだけでも過剰戦力と言えるだろう」
「………序列二位の実力、しっかり拝見させて頂きます」
「フン、精々お前が足を引っ張らないことだ。氷女の元右腕よ」
"元"という言葉に桐乃は少し反応したが、気にしないことにしたのかスルーを決めた。
「それでは、晶様、参りましょう」
「良し、"運べ"桐乃よ」
「………発動」
桐乃が発動と呟くと地面が底なし沼の様になり、全員がゆっくりと沈み始めた。
________________________
「あれ、どうして」
学校の内部まで移動したつもりなのだが出た場所は丁度正門の位置となっていた。
「座標を間違えたの?いやでも、そんなはずは」
私が少し慌て始めたら校舎の方から声が聞こえてきた。
「我が校の元Aクラス生徒、桐乃さん。『影』という物は便利ですね。移動にも使えますし、攻撃にも使える。羨ましいです」
「誰っ!」
私は反射的に後ろを見ると、校舎の屋根に一人の老人が立っていた。私は一度だけその姿を見たことがあった。この能力専門高校の教頭の立場にあり、『鑑定』の能力を持つ人物。その名も七瀬天狐である。
「さて、改めましてようこそ、関西能力専門高校へ。桐乃さん、私のところまで来ることが出来たらまたお会いしましょう?それでは」
それだけ言って私が動き出すよりも早く校舎内へと消えて行ったのだった。
________________________
「はぁ、皆さん、出てきてください」
そういうと、地面に桐乃自身の影が広がっていき、その中から三人が出てきた。
「桐乃よ、少し遅かったな。誰かと遭遇したのか?」
「はい晶様、高校の教頭と会話いたしました。おそらく私達は待ち伏せされている物かと思われます」
「ハッ、ハハハッ、待ち伏せか。奴らβというものを舐めているな。少し分からせてやろうか増長殿」
「賛成だ。氷女、お前は右に行け。私が左に進ませてもらう」
そんな会話の後、晶と増長と呼ばれる男はバラバラに校舎内を進んで行った。
「ねえ有馬君、こうやって話すのも一週間ぶりくらいだね。後は私達しか残ってないけど……どうする?」
「………桐乃、お前は俺を何でβに誘ったんだ?」
「え、突然どうしたの?」
「俺がβに入ったところでお前が得るものは何一つ無かったはずだ。それどころかお前は片目を失っちまってる。ずっと気になってたんだ。そこまでして俺を連れて行く意味って何だったんだろうって」
「何でだろうね。私は、最初は君が高校という制限のある場所で過ごすのが窮屈だろうなって思った。だから結果を出せば個人だろうと認められるβの方が向いてるって思ったんだよ」
「でもね、今は違う。君の境遇ってさ、私と凄く似てるんだよね。だから……重ねちゃったのかなぁ。βで君と一緒に過ごしてみたかったし、君と一緒にもっと色々やってみたいって思っちゃったんだよね」
少し恥ずかしそうに桐乃は話を続けた。
「ほんの少しだけの関わりだった。でも、何か特別なものを感じたんだよね。君をβに誘うまでは生徒と仲良くするつもりは無かった。襲撃をする時に情が湧いちゃ困るからね。でも、君の独りで頑張ろうとしていたプライドに段々と惹かれて行っちゃった」
「え、き、桐乃?」
「ごめん、戦いの前にこんな事を言うなんてさ」
申し訳なさそうに桐乃は俯いていた。
「桐乃、俺は今の今までβに入る意味って何だろうってずっと考えてたんだよ。でも、ようやく分かった。今の俺はβでお前を守るためにあるんだって」
「え?」
「桐乃、お前の話も後でゆっくり聞かせてくれよ。今は俺達も校舎内に入ろう」
「うん、ありがとう、有馬君」
この時、二人の頬はどちらも赤く染まっていたと言う。




