第五十七話 過程
『はあ?βが学校を襲撃して来ただと?』
俺は学校まで戻り、美蘭先生に電話をかけていた。
「ああ、どうやらスパイがいたらしくてな。ちょうどこっちの戦力が弱っているところにつけ込まれちまった」
『とはいえ被害はそこまで大きくないんだろ?奴らの目的は何なんだ?』
「俺の予想だと……奴らは能力協会自体を壊しに来ている気がする。危険分子の能力者にとって能力協会は一番厄介な存在だろうからな」
『全然あり得る話だ。それで……明、お前はどうするつもりなんだ?』
「その前に……先生とちょっと話して欲しい人がいるんだが」
『ほう?誰だ、代わってみろ』
俺は少し後ろで話を聞いていた男にスマホを渡した。
「………はぁ、光、無茶振りしやがって」
『その声………奏か?お前、どこで何してるんだ』
「……姉貴、久しぶりだな」
『まあ元気なら文句は何もない。それで?一体何の用だ?そもそもなぜお前がそこにいるんだ?』
「姉貴、俺はこの高校で教師をやってるんだ。姉貴はβについても知ってるんだろ?なら手伝ってくれ。俺はこの高校を守らなきゃいけねーんだよ」
それを聞いた美蘭はフッと笑いながら、
『仕方ない、可愛い弟から久しぶりに頼られたんだ。私も参戦してやる』
と返した。
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「あ、晶さん。質問しても良いでしょうか?」
「どうした?有馬」
有馬は自分の部屋でくつろいでいる晶の元へコーヒーを用意しながら疑問だった事を口にした。
「βって、結局どんな組織なんですかね」
「ふむ、βについてか」
晶は少し悩んだ素振りを見せていた。
「あ、あの、過ぎた質問でした。申し訳ございません」
「いやいや、質問は良いんだ。ただ、どこまで言っていいものか……少し長くなるが良いかな?」
「はっ、はい!」
晶はほんのり口角を上げて、怯えていた有馬を落ち着かせる様に話し始めた。
「まずだ、有馬よ。お前はβについて桐乃から何と聞かされたんだ?」
「桐乃から……えっと、完全実力主義な能力者の集団ってくらいですかね」
「……間違いではないが、情報が少ないな。そうだな、有馬よ。神話種を知っているか?」
「えっと、世界に五種しかいない最も神に近い能力……ですよね」
「ああそうだ。そして、我らβの現状の目的は神話種を集める事だ。神話種狩りとも呼ばれているが、神話種を集める事自体は過程に過ぎない」
「か、過程って」
「我々の最終目標は『神降ろし』だ」
「か、神降ろし?それって一体……」
晶はつい先程までの落ち着いた雰囲気ではなく、相手に重圧を与える様な鋭い目つきで有馬を見た。
「目的についてはここまでとしよう。これ以上私が喋るわけにはいかないんだ。後は自力で十位以内まで上がって来ると良い」
「は、はい」
「今はこんなところで良いだろう?有馬」
「はい、どうもありがとうござ……」
有馬の言葉は、最後まで晶に届くことは無かった。晶は冷たく、けれどどこか見覚えのある様な黒い部屋に立っていた。
「この感じ……誰かが死んだのかな?」
「少し違うかなぁ、やあ晶ちゃん。久しぶりだねー」
「……累」
晶は無意識的に汚物を見る様な目を向けていた。
「酷いなぁ、そんな目で見なくても。ボクは晶ちゃんの事嫌いじゃないんだけどなぁ」
「累、貴方は如月美蘭にボロボロにされたそうじゃないか。そんな身で、いつまでも六位の座にいても良いのか?」
「晶ちゃんさ、自分よりも強い相手に喧嘩を売る時は何をされても良いって事なんだよ?」
「フッ、かかって来るか?」
ドンッ
「……くっ」
「チッ……お久しぶりです。多聞殿」
多聞と呼ばれた男が机を叩いた音。それだけだった。だが、たったのそれだけの行為が周囲への威圧という役割をしっかりと全うしていた。
「晶、累、お前達少し落ち着け。いつまでもたった一位の差を気にするな。そんな事をしている暇があったら実力を磨け」
「「はっ」」
「さて、今回は久しぶりに十人全員が揃った。始めよう、会議の時間だ」
辺りにはいつの間にか十位までの全員が呼び出されていた。この会議は普段は十位以内の順位が変動した時に行われている。それなのに何故今回は突然集められたのだろう。
「まず、晶よ。お前の言い分は理解した。有馬薫、此奴をβに歓迎しよう。晶、お前の右腕として使うが良い」
「はっ、感謝いたします」
「さて、先日のことだ。晶が能力専門高校を襲撃したという。俺は、これを宣戦布告とし能力協会の乗っ取りを決行したいと思っているのだが、諸君はどう思うかな?」
「はっ、私は……」
誰よりも前に立ち、仮面で隠した顔。真っ赤に染まった瞳。
誰よりも強く、能力を極めたであろう九人の前に立つこの男が、β序列一位・多聞である。
どもどもも、親の顔よりみた小指です。今回はβ視点多めの一話です。よろしくお願いします!




