第五十六話 スパイ
「うっぷ、も、もうすぐ?」
「……行きも帰りも結局こうなるんだな、オリヴィア」
俺達が乗っている船はまもなく関西都市群に到着する。行きと同じくオリヴィアは船酔いに苦しんでいた。
「オリヴィア、もうすぐ高校だ。あと少しの辛抱だぞ?」
「うん……うっ、出そう……海、外……行かなきゃっ!」
全く、忙しない奴である。とそんな事を考えていると、
「ひ、光君?見えたよ……高校だ」
とオリヴィアから安堵の声の様な物が聞こえて来た。
オリヴィアが指差す先には、関西都市群の中でも一際目立つ能力専門高校の校舎があった。
「もしもし、校長さん?如月っす。はい、もう戻りますんで。はい、はい?……襲撃?それに………何を言ってるんです?」
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「おい!お前ら!」
もう上陸といった時に、如月が血相を変えてやって来た。
「何だよ如月先生、そんなに焦るなんて珍しいな」
「光!オリヴィアはどうした?」
「オリヴィアなら……多分上で吐いてるけど」
「あぁ……ならひとまず安心か」
如月は突然落ち着きを取り戻し、いつもの面倒そうな顔に戻った。
「光、今はお前だけで良い。信頼できる奴にしか共有出来ない一大案件だ」
そう言ってから如月は一拍置いて告げた。
「高校が襲撃された。詳細はまだ不明だが、βと名乗った組織の犯行らしい」
β……だと?だとしたら動くまでが早すぎる。まだ俺達が学校に来てから一週間程しか経っていないんだぞ。まさか……俺の正体がバレたのか?
「光、お前……その反応、知ってるんだな?βとやらについて」
まずい、色々と考えていたら顔に出てしまっていたらしい。
「いや、知っているわけないだろ?そんなことをする組織もいるんだなと驚いていただけだ」
「フン、そうだと良いがな」
納得がいかない様子だが、今はまだ良い。如月に探られたくない過去がある様に、俺にだってバレちゃいけない事があるんだ。
「それで……何でそいつが極秘扱いなんだ?」
「俺はそこそこ名の知れた能力者だ。そんな奴がいるのに躊躇なく戦力を投入したいと思うか?」
名の知れた能力者って自分で言うかね、普通。
「……つまり、敵側にはこちらが外にいる事がバレていた……って事か?」
「ああ、要するに、学校内にスパイがいる」
確かにそう言う事なら全員に公開するべきじゃない。
「それと……俺はそのスパイを有馬と桐乃だと思っている」
俺達Aクラスがいないタイミングを知っており、不自然に姿を消した人間……間違いなく有力候補だ。
「俺もそんな気がする。それで如月先生……これからどうするんだ?」
「ああ、俺もそれを決めあぐねていたところだ。まずは生徒の避難だろうか……」
如月は悩んだ素振りを見せる。
俺は一つ疑問に思う事がある。奴らの目的は神話種を狩ることじゃなかったのか?奴らが学校を襲って何の意味があるんだ?
「………あ」
神話種狩りをする能力者にとって一番邪魔なもの。
能力協会だ。奴らの狙いはそこだ、間違いない。だとしたら今回の裏にいるのは本当に七位なんかなのか?六位の累でさえ神話種無しで戦力自体は十分だった。
今回の様な規模の大きい場所への襲撃に七位ごときが対応するか?
俺の頭の中には累を回収に来たあの二人が思い出されていた。
「如月先生、迎え打とう」
「はあ?正気か?敵の規模も分からないしそんな危険な行動に出れるわけないだろうが」
「今回の敵はアンタでも相手にならないかも知れない。能力協会存続の危機だぞ?みすみすと二度も襲撃を許して良いのか?」
如月はずっと気が狂った奴を見るかの様な視線を飛ばしてくる。
「はぁ、光、俺でも勝てないならそもそも無理な話だ。そこらの能力者で俺よりも強い奴なんて……あっ……いや、アイツは、アイツだけはダメだ!」
「分かるだろ?同じ関西都市群に住んでるんだ。頼ろうぜ?最強に」
それを聞いた如月は悔しそうに、
「美蘭………姉貴」
と言葉を溢したのだった。




