第五十四話 実践訓練
「あれ……雨か」
実践訓練二日目である今日は朝からずっと悪天候が続いていた。
「あ、明、見つけたよ。如月先生は北東の方角だ」
「ああ、ありがとなバルバトス。他の奴らにも伝えてくれ。四度目の今回で終わらせるってな」
三度目の正直とよく言うが、あのレベルの格上との差を俺達は三度じゃ埋めることが出来なかった。
だが言ってしまえばまだ三度だ。訓練だから殺されることはないというこちら側の利点を最大限に活かして挑み続ける。それが今奴を倒すための最適解だろう。
「光、晴人君から聞いたけど本当にまた挑むの?もう勝ち目なんてないんじゃない?」
凛が後ろからやって来てそう言った。
「凛、お前、今日なら大丈夫だろ?」
「えっ?何急に?そんなたった一日で急激に強くなったりなんかしないよ?」
「いや……気付いてないのか?今日はお前にとってこの上なく戦いやすいだろ」
「えっと……あ!雨か!そうだね。確かに今日ならいけるかも」
「ああそうだ。能力ってのは結局全部相性で決まるんだ。どんなに最強の能力者でもそれが効かなかったら意味がない。逆に言えば、どんなに弱くても下剋上できる可能性があるって事だ。自信持ってけよ?」
それを聞いた凛は、
「誰に言ってるの?私だってAクラスなんだから。Aクラスの意地っての、見せてあげるよ」
と自信気に言った。
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如月の頬を矢が掠めた。同時にそれが四度目の開戦の合図ともなる。
「お前らもいい加減しつこいな。協力してるから有馬よりはマシだと思って制圧する時も加減してやってるのに……前みたいにボロッボロにしてやろうか?」
「先生よ、悪いけどそう毎度上手くは行かないんじゃないか?ここで俺達が勝つからな」
言い終わる前に俺は如月に銃弾を撃ち込んでいた。
「銃って……何でそんなもん持ってやがる」
如月はギリギリで銃弾を避けて瞬時にこちらへの距離を詰める。
「遠距離武器を使ったって本体が前に出て来てちゃダメだろ……あ?どこへ消えた?」
「先生よ、俺はこの一週間で先生のその早さに対応するために能力での高速移動を磨き続けた。そしたら亜音速で動ける様になった。ついでに飛べる様にもな。だからそう簡単にはアンタの攻撃は当たらないぞ?」
「はぁ、面倒だな。ん?何だこの木は?」
如月の周囲にはつい先程まで無かった木の根が張り巡らされていた。
「クッソ、邪魔だ!」
如月が根を叩き切ろうとして触れた瞬間、全ての根が如月の四肢に巻きついた。
「ぐっ」
木の根はどんどん縛りを強める。
「今だよ!光君!ボールを奪うんだ!」
「ああ!」
俺はとてつもない速さで如月に近づく。ボールに触れる、この速度なら奪える。
誰もがそう確信したが、ボールが取られる直前、一つの単語が発せられた。
「……発動」
俺はいつのまにか如月から離されていた。いや、厳密には吹き飛ばされたのだろう。身体に伝わる衝撃がそれを物語っている。
「ぐっ、ついに……使ったな。奴の能力」
手が上がらない、身体が麻痺している。
「あー、つい本気になっちまった。さて、光……あとの二人はどこにいるんだ?」
「……言わねーよ。強いて言うなら……後ろを見てみれば良いんじゃないか?」
「は?なっ!」
如月の後ろからは特大の炎の塊が飛んできていた。
「あぶねっ」
如月がギリギリで避けた先の地面には再び木の根が張り巡らされていた。
「クソッ、うざったいな」
如月が言い終わる前に木の根が四肢を縛っていた。
「今だっ……凛!能力を使われる前に!」
「うんっ、発動!」
如月の抵抗が止まる。如月の周囲の雨粒を全て操り位置を固定したのだ。
「動けなっ、何だ?力が入らない」
「如月先生、力が入らないのは凛のせいじゃないぞ?最初の晴人の矢。あれは掠っちゃダメだったな」
「……そうか、麻痺毒か」
「さあ、これで最後です。先生、覚悟!」
凛は周囲の雨粒から巨大な水の玉を作り出していた。
圧倒的な物量による集中砲火。それにて決着がつくはずだった。
「……鯨の聲」
突如如月を中心とした衝撃波が発生した。俺に対して能力で吹き飛ばした時とは比にならない出力の衝撃波は、辺り一帯を拘束ごと吹き飛ばした。
「久しぶりに本気になっちまった。これは後始末が面倒だな。さて、もうあまり時間の猶予もないな。最後まで俺に勝つ奴は現れなかったか」
如月が一人で喋っていると、首にボールが掛かっていない事に気づいた。
「へっ、へへっ、ようやく気づいたかよ。先生、オリヴィアの手の中を見てみな」
「なっ、光、お前……まだ意識があったのか。オリヴィアの手だと?」
渋々如月が意識のないオリヴィアの手を開いてみると、そこにはつい先程まで首に掛かっていたボールがあった。
「……いつ奪ったんだ?」
「最初に木の根で拘束した時さ」
「そうか……ずっとお前達の掌の上だったって訳か」
「これで勝ち……だろ?」
俺がそう言うと、
「ああ、認めてやる。お前達は予想以上だった。Aクラス残留だ」
と言い、如月は呆れの様にも見える顔をしてきたのだった。




