第五十三話 不穏
「はぁ、何あの人。やっぱり速すぎるよ。絶対あれ身体強化系の能力だよ」
日が沈みかけ一日目が終わろうとしている時、凛は愚痴を吐き続けていた。
「絶対そうだよ。有利な能力だからって生徒を試してるんだ。本当にあの先生やる気ないよね」
「やっぱり?オリヴィア様もそう思います?思いますよね!」
「あーっと、二人とも、意気投合してるとこ悪いんだが……今日如月先生は一度も能力を使ってないぞ?」
「「えっ……」」
やっぱり気付いてなかったのか。
「あの人は今日……というか、先週も含めて訓練ではおそらく一度も能力を使ってない」
「じゃ、じゃああの速さは?」
「素の身体能力ってことだな」
「……そんな」
二人して絶望した声を出した。
「光さん、その二人は置いといて明日の戦略を話し合いましょう」
「亜門さん!ひどーい」
「ひどいのは凛、お前だろ。お前だって戦うんだしな」
「えっ!無理だよ!光!明日は光に任せる!ね!」
「はぁ」
初日である今日は如月と三回接敵した。三回のうち、俺達の攻撃が如月に届いたことは未だになかった。
何よりも、一緒に行動していることで戦闘経験の差が浮き彫りになっていた。俺やアモン達は今まで生きて来た環境が全くの別世界故、戦闘中に能力をフル回転させて使うことには慣れていた。だが、オリヴィアと凛は今まで戦場に立ったことなんてほとんどない。つい一週間前に能力を開花させた奴もいる中での戦闘はほとんど上手く行かなかった。
「今日で大体の勝ち方は掴めた。明日こそは勝つぞ」
俺達の二度目の実践訓練一日目は、成果を得られずに終わった。
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「なあ有馬よ。お前は何度挑んでくれば気が済むんだ?」
「ぐっ、降りろよ!」
「降りねーよ。こうやって抑えてないとお前ずっと挑んでくるじゃん」
島の奥深く、二人の人影があった。一人は倒れ込んでおり、既にボロボロの身体だった。
「有馬、もう単独行動なんてやめちまえよ。いい加減にそのプライド捨てろ」
「嫌なんだよ!あんな緩い仲良し集団なんかと関わるなんて!」
「はぁ、緩い仲良し集団ね。お前さ……まだ気づいてないのか?」
「な、何がだよ」
「今一番緩いのはお前だぞ?」
「あぁ!どけっ!俺は有馬透の息子なんだよ!」
「またそれか。この高校にいる以上、それは通用しないって学べばどうだ?」
「クッソ!クッソ!」
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「あれって、有馬君?何で……先生に?」
遠くから有馬と如月が話している現場を見ている人物が一人いた。
「そうだ。有馬君を引き込めないかな。有馬君ならウチの方針に合ってるし……うん、決めた」
少女は闇の中に姿を消した。
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「クッソ!」
「あーはいはい、いつまで悔しがってるんだ?この時間を少しは仲間との交流に使ったらどうだ?ん……何だ?地面が……沈んでる?」
「な、何だ?じ、地面が……沈むっ」
次の瞬間、有馬の姿は無かった。
「今の……何だったんだ?有馬の能力なのか?あんな能力者見たことねーな」
「有馬君、もう出て来て」
「あ?誰だ!ってお前は……桐乃か。何だ?俺を助けたってのか?」
「いや、違うの。その……私がいる組織に有馬君も入って欲しいの」
「組織だと?いきなりどういうことだ?」
「今の君にはこんな高校は似合わないと思うの。私のいる組織は完全実力主義で成果を上げれば上げるほど評価されるし……どうかな?」
「何とも言えないな。お前らの拠点まで連れてけよ。名前はなんてとこなんだ?」
「興味を持ってくれてるだけでも嬉しい。名前は『β』偉大な能力者の集団だよ」




