第五十話 強くして
「おいっ!はっ、早く降ろせ!いつまでこれでいるつもりだ!というかどこに向かってるんだ!」
「どこって、うーん、まず服屋だろ?その後に……休める所となると、俺の家で良いか」
「はあ?良いわけないだろ!それにわざわざ服屋とか行かなくて良いから!」
「え、だってお前一着ダメにしちゃったじゃん」
「うぅ、それをわざわざボクの前で言うな!二度とだ!」
俺とオリヴィアは、今二人で帰路に向かっていた。ちなみに凛は、如月の発言のせいで心が折れたのか先に帰ると言って帰ってしまった。
そして、何故オリヴィアがここまで騒いでいるのかと言うと、
「ボクはこんな姿が周りに見られちゃいけないんだ!こんな!お、おんぶだなんて!」
とまあ、おんぶしているからだろう。
「ボクは確かに言ったよ?一人で帰れるか分からないから付き合って欲しいって」
「言ってるじゃねーか」
「誰がおんぶまでしろなんて頼んだ!良いから、早く!」
「いつまで怒ってるんだよ。どのみち一人じゃ立ってるのが限界のくせして」
「そ、それでも恥ずかしいんだよ!せめて肩を貸すくらいにしてくれ」
「はぁ、光君と一緒にいると疲れるよ。それにしても本当に良かったのかい?君の家に泊めてもらっちゃって」
「別に構わない。お前のとこまで一人で帰らせるのはちょっと心配だったし、少しうるさいのが二人いるけど我慢してくれ」
「あ、ああ、勿論だ。お、お邪魔しまーす」
ドアが開いた瞬間、奥の方からドタドタと足音が聞こえて来た。
「明さ……光さん?おかえりなさい。そしてそこのお方は?」
天華が迎えてくれたのだが、オリヴィアを見た瞬間、一気にギロリと鋭い眼光になった。これ、おんぶしてたら殺されてたかもな。
「えっ!オリヴィア様?何故ここに?」
凛まで来てしまった、これはちょっと面倒だな。
「み、皆、落ち着いてくれ。色々と説明しなくちゃな」
俺はそう言って二人をなだめてここにくるまでの事情を事細かく説明して行った。おんぶしていたことは隠して。
「え!大怪我じゃないですか。ねえ明さん?すぐに龍さんに連絡して連れて行ってもらい治療をするべきです!」
「それはそうなんだけど、次の訓練が一週間後なんだよ。だから天華、お前、ちょっとでも楽になるように出来ないか?」
「で、出来ますけど。本当に良いんですか?ちゃんと治療をしなくても」
「ああ、これは本人の意思だ」
「分かりました。浄化」
浄化は攻撃型に使うと弱体化になる。が、それ以外が相手だと身体の負担を軽減するオマケ付きなのだ。
「え、何で?ちょっと楽になった……気がする」
「実際なってるんだよ。浄化を受けたんだから」
俺は凛に聞こえないように説明した。
「え?浄化って……」
「よしオリヴィア、ちょっとついて来い。二人きりで話をしようか」
「え?ちょっと、光君?」
「こ、ここって光君の部屋かい?どうしていきなりこんな……」
「あれが、本物の『天使』だ」
俺は真実をオリヴィアに伝えた。伝えてしまった。少し早かっただろうか。
「て、天使………彼女が?」
「ああ、偽りなんかじゃない。チヤホヤもされずにずっと陰で生きて来た本物の神話種だ」
「…………」
「どうした?ダンマリか?ここには俺たち以外誰もいない。言ってみろ、お前の本当の能力は何だ?」
「……せい」
「……なんて言った?」
「……っ『妖精』だよ!ああそうさ、ボクは天使なんかじゃないんだよ!」
「ようやく話したか。強情なんだからな、お前は」
「し、仕方ないだろ。いきなりボクの正体を知ってる奴が、お前なりすましだろなんて言ってくるんだから、信用できるわけないだろ!」
うっ、それを言われるとあまり強気に言えなくなってしまう。俺から見てもこいつとの初対面は最悪な絡み方だったと自覚している。
「悪かったよ。あれは、本当に」
「そうだよ!それに、ず、ずるいよ光君は。なんで本物の『天使』を知ってるんだよ!そんなの、ずるいよ!」
「こっちにだって色々あるんだよ。というか、何で『天使』のなりすましなんてしてたんだ?留学生なんだから何もしなくてもそれなりの待遇を受けれたはずだろ?」
俺はずっと疑問だったことを聞いた。
「お父様が『天使』として学校に入れって」
「お、お父様?何でそんなことを……」
「知らないよ!ボクだって知りたいんだよ。ネームバリューばかり膨れて行って、能力は追いつかない。『天使』になってからずっとそんな生活だった。嫌だったんだよ」
「よし分かった。オリヴィア、お前を一週間で強くする」
「え?無理だって。ボクだって努力したんだぞ?何度も強くなろうとしたけど、ボクの『妖精』の能力はロクに使えなかったんだ」
「今回は俺が付いてる。安心しろ」
「で、でも」
まあ、本音を言えばこいつの信頼を得て、父親の詳細を知りたいだけである。オリヴィアの父親。それが現状最もβ七位に結びつく人物だ。ここで逃すわけにはいかない。
「それで、どうする?Aクラスとして立ち向かうか?それとも逃げるか?」
「くっ、分かったよ。ボクは君を信じる。お願い、何でもする……ボクを強くして」
「ああ、任せろ」
こうして一週間の猛特訓が始まったのだった。




