第四十五話 張子の天使
「水か……強いな」
「でしょ?案外すぐに認めてくれるんだね。もっと頑固なのかと思ってた」
「俺のことを何だと思ってるんだ?」
それにしても、凛は初対面の時はもっとオドオドしてたのに随分変わったな。一週間話して信頼を得たのだろうか。
「あ、見えて来たね。あれが能力高校だよ。一度見たとはいえやっぱり凄い規模だねー」
都市群の中央部、新日本で最も栄える都市。その中に関西能力専門高校は位置していた。
校舎はとてつもない大きさで、訓練に必要な設備は全てが揃っており、最先端の教育を受けれる。能力者にとって、そんな夢のような場所だった。
「え、こんなデカいのか。予想外だな」
「え?見たことなかったの?受験の時に近くまで来たんだから一度見ておけば良かったのに」
「あ、ああ、そうだな」
受験って……そんなこと言われても受けてないしな。普通に話してたらいつかボロが出そうだ。
「クラス決め?」
「うん、最初に能力ありで先生と組み手をしてその勝敗でクラスを分けるらしいよ」
「でも先生ってことは……」
「そう、多分超強いはず。生徒じゃ相手にならないだろうね。まあこれも一種の儀式みたいなものらしいから勝敗をそこまで重く考えなくて良いよ」
「凛はかなり落ち着いてるな。緊張しないのか?」
「ふふん。私は組み手なら負けなしだったんだよ。地元でも能力者が何人かいたんだけど全勝!凄くない?」
ああ、何で自信があるのかと思ってたけど、これ調子に乗ってるな。多分痛い目見るぞ……凛、頑張れよ。
「ん?なあ凛、あれ誰なんだ?人だかりも凄いけど」
「ちょっと、無視しないでよ。何?誰のこと?」
「あそこのお嬢様みたいな」
「えっ!嘘、オリヴィア様だよオリヴィア様!よくテレビとかにも出てる!」
「普通に知らないんだけど。能力者なのか?」
「嘘でしょ!オリヴィア様知らないの?聞いて驚け!オリヴィア様は何とね、あの神話種『天使』の持ち主なんだよ!驚くでしょ?」
は?『天使』?あれのどこが『天使』なんだ?羽の時点で見た目がおかしいんだが。天使の羽は色が白いだけで普通の鳥の羽と同じ見た目だぞ?
それに対して何だあれ。虫じゃんか。言うならば蝶の羽に似てるな。
「え、本当にあの『天使』なのか?」
「そうだよ!やっぱり光でも神話種には興味あるんだ。普通神話種なんて見れないからね。あんな人が見れるなんて、まさにこういう高校の特権だね!」
ギャグであって欲しかったな。神話種になりすますなんて許されることじゃないだろうにな。
「名前がオリヴィアってことは外国人なのか?」
「そうだよ。オリヴィア様はイギリス出身なの。日本には留学しに来ているんだよ。それにしても、オリヴィア様を知らないって世間知らずにも程があるでしょ」
「そんなレベルなのか?最近ずっと忙しくてさ」
「もう、私が一番尊敬してる能力者なんだよ?これからどんどん布教していくから覚悟しててね!」
何だか凛のオタク心に火を付けてしまった気がする。
「こんにちは」
突然、背後から声がした。
「ん?誰だ?」
「オリヴィア・フェアリーと申します。何かボクの名前を大声で叫んでるから気になって」
「ああ、悪い、迷惑だったな」
「え、あ、いや、別に大丈夫だよ」
近くで見てみると、何だか既視感が……あ、アモンだ。アモンに似てるんだこいつ。違いと言えば銀髪なこと、メガネを掛けてないこと、あとは一人称がボクな所くらいか。
俺がそんな分析をしていると、
「オ、オリヴィア様!あ、あの、私、今年から能力高校一年生の月島凛と言います。それと…ずっと応援してます、頑張ってください。あと、えっと」
と、異常なテンションの凛がオリヴィアに話しかけた。「おい凛、焦りすぎだろ。言いたいことは分けて言わないと伝わらないだろ」
「あははっ、良いんだよ、凛、ボクからもよろしくね」
「は、はい!」
そこで凛は恥ずかしくなったのか、一人で校舎の方へ行ってしまった。
「君の名前は?」
「俺は稲野光だ。お前がオリヴィア……ね」
「光君か。君、面白いね。皆ボクに対して敬語で話してくるからさ、家族以外だとタメで話すの初めてかも」
「そうか?こっちの方が話しやすいだろ?」
「ふっ、そうだね」
オリヴィアは少しだけ笑顔を見せた。
「さて、そろそろ時間だし俺も行くことにするよ」
「うん、光、また会えると良いね」
「会えるさ」
そこで俺はオリヴィアの耳元で、
「お前が偽りの天使でいる限りな」
と呟いた。




