第四話 始まり
羽の生えた謎の少女。どうすれば良い?話しかけるべきか?………だが。
俺がそんなことを悩んでいた瞬間、足元に落ちている石に当たってしまい僅かに音が響く。音に一瞬だけ振り返った少女と目が合った。
何か救いを求めるような、そして泣きそうな青い瞳だ。とても澄んでいて美しい青だった。女の子は人の気配に気づいた瞬間に羽を広げ猛スピードで走り去る。飛んでるにしては違和感があり、普通に走っているにしては滑らかな動き。何らかの能力を使っているのか?
たった一度目が合っただけの筈が、何か本能を刺激してくるような、複雑な目だった。あんな目は一朝一夕で身につく物ではない。相当な悲劇を繰り返して来たのだろうか。まさに訳アリって物だ。
「………ああクソッ、このまま放ってはおけないだろ!」
俺は足に意識を集中させる。光の様に高速で動くイメージを脳内で作る。
俺の能力で作れる速度は光速に達することは出来ない。だが今回においてはそこまでの速度は必要としない。
次の瞬間、俺は少女を上回るスピードで走っていた。追いつくのも時間の問題だろう。
「ひっ……や……来ないで!」
少女が声を漏らした。震えながら走っている。一先ず俺は彼女にとって脅威では無いと説明しなければ。
俺は女の子に追いついて手を握った。
「おい、お前大丈夫か? ここは旧日本だぞ? 迷い込んだか? なんでこんな危険な場所に……」
「は、離してください! すみません! 殺さないでください! 許してください!」
俺を遮る様に力強く振り解こうとする。
この子からは相当なトラウマを感じる。まだ中学生くらいだろうに過去に一体どんな経験をしたのだろうか。
「落ち着け! お前を殺したりなんかしない。一体何があった? なんで旧日本なんかを彷徨っているんだ」
「け、研究所の追手じゃないんですか? もう戻りたく無いんです! 私のことを許してください!」
「研究所?一体何があったんだ?」
俺は彼女が落ち着くまで待ち、そして龍に連絡を入れてから彼女が休めるところを探した。
「なぁ、話してくれないか? 君の身に何があったのか」
「……あなたは、なぜ見ず知らずの私のことをそこまで気にかけてくださるのですか? 初対面ですよね?私のことなんか気にしないでください。私のことが好きな人なんてもう誰も生きてないんですし」
「そうだな……強いて挙げるなら、昔の俺の目に似てたから……かな」
「そんな……曖昧な理由で? 私が旧都荒らしだったらどうするつもりだったんですか?」
「旧都荒らしならその時はその時だ。それに、俺はそこまで弱くは無いからな」
それに、あの目を見せられて無視するのは俺の、俺達の、四大罪人の信念に反する。
会話をしながら少女の方に注意を向ける。僅かに肩が震えている。見ず知らずの奴を突然信用なんか出来るわけがないか。落ち着いて見てみれば目元には深い隈があり、身体中に痣や擦り傷が残っている。一体どんな人生を過ごして来たのだろうか。
「今まで相当辛い人生だったんだよな、お前。安心しろ。俺だけは、俺達だけはお前の味方になってやる。守ってやる」
俺がそう言った途端に彼女の目に涙が浮かんで俺を抱きしめてきた。
「お、おい、急にどうした?」
「す、すみません、涙が……つい……うっ」
「………今までの素っ気ない態度が嘘みたいだな」
「うぅ、それは………言わないでください」
十数年分の涙が溢れ出たのか、一向に彼女が落ち着く気配は無い。
「………ちょっと、このまま胸を貸してください」
俺の服に顔を埋める彼女を見て俺は無言で頷く。
これまで一体どれだけの扱いに仕打ちをを受けて来たのか。今の俺には何も分からない。
これが救いになるのならば、しばらくこのままでいさせてあげよう。
暫く時間が経ち、俺の元に龍がやってきた。
「遅いぞー、連絡してからもう三十分は経ってるんだけど」
「場所も伝えずに迎えに来いとだけ言うバカには言われたくないな」
龍は俺を見ながら苦笑いをした。俺自身も無我夢中で走っていたから場所が分からなかったのだ。仕方がないだろう。
「あ、それとこいつ連れて帰るから、拠点まで頼む」
「……お前の急な行動は今に始まったことじゃないから文句は無いがな………それにしても一体何があった?その子、随分とボロボロだが大丈夫か?」
「まだあまり分からない。ただ何らかの大きな事情があるんだろう。昔の俺達と同じ目をしていた」
「………そうかよ」
俺は少女を背負いながら龍の肩に手を乗せる。
「嫌な世界だな……本当に。そんじゃ、明。ちゃんと掴んどけよ?」
龍がつぶやく
「能力発動『移動』」
目の前が明るくなり瞼を開くと、俺達三人は出発前の地点まで帰ってきていた。
稲光明の能力『光』
光を得られる場所であれば自由自在に操ることが可能。また、太陽光を凝縮しレーザーとして打ったり、早く走れるようになるといった光という名前に相応しい様々な効果がある。




