第十八話 師匠
「え?私がですか?」
俺達はルシファーの拠点から一度転移で戻っていた。天華をルシファーのところに連れて行くためだ。
「嫌です」
「何でだ?」
「嫌と言ったら嫌です」
「どうしてもか?」
「どうしてもです」
普段はこんなやつじゃないのにな。反抗期か?
「何で行くのが嫌なんだ?」
「…それは言いたくありません」
よく分からないやつだな。
「明もついて行く。それで良いだろ?」
後ろでやり取りを聞いていた先生が悪魔のささやきをしてきた。俺、あの人のところに幽閉とか嫌なんだけど。
「…それなら行きます!」
何でこっちにはすぐ了承するんだ。チッ、俺もルシファーと一緒に過ごさなきゃいけないのかよ。
「乃亜、頼んでた物できたか?」
「はぁ、作ったわよ。急ピッチでね」
俺は天華と話した後、乃亜の部屋に来ていた。乃亜の目にはクマができていて、とても疲れた様子だ。
「これか…かっこいいな」
「そうでしょ…明がすぐに『悪魔』のとこに行っちゃうって言うから徹夜で作ったのよ。感謝しなさい」
「ああ、ありがとう」
俺が乃亜に頼んでいたのは義手だった。それも特注の。
「神経に接続して高度な動きを作るって…アンタ簡単に言ってたけどね、私は身体の構造にはそんな詳しくなかったし大変だったんだからね」
「ありがとう乃亜。使いやすいよこれ」
「そりゃ私の能力だからね、完成度は完璧のはずよ」
「じゃあ行ってくるよ」
「私はしばらく寝るわ。もう体力が持たないわ」
俺は乃亜の部屋を出て、そのままベルゼブブが待っている先生の部屋に向かった。
「お、ちゃんと義手になってるな」
「これで能力行使に支障は出ないし、近接格闘も多少なりともできるはずだ。それより、俺はいつまでルシファーのとこにいれば良いんだ?」
「天華が浄化を使いこなせるまで…だな」
「おい、先生、俺はいつ帰れるんだ?それ」
「なに、天華が頑張ればすぐさ。な?天華」
「は、はい!任せてください」
「今から言っても何も変わらないか。仕方ねえ。ハエ、頼む」
「了解です。発動」
「こ、ここが本拠地なんですか?豪華な建物ですね」
「お前はしばらくここで暮らすんだ。早いうちに慣れとけよ」
俺達三人は悪魔組の本拠地の中に転移していた。ちなみに先生はやることがあるとかで来なかった。全くあの人は。
「それではボスを呼んで来ます。ここで少しお待ちを」
ハエが忙しそうに部屋に入っていった。
「私…本当に強くなれるんでしょうか」
「一度は能力を覚醒できたんだ。お前ならできるよ」
「…はい!」
そんな会話を交わしていると、部屋の扉が開かれた。
「お前が『天使』だな?お前、強くなる気はあるか?」
黒い翼を広げて天華のことを睨みながらそんなことを質問してくるルシファーに対して、天華は少し怯えながらも
「は、はい!」
と返して睨み返していた。
「そうか、野心がないと強くはなれないからな。お前は今から俺の弟子だ」
「はい!師匠」
まだ対面して十分も経っていないんだけどな、いきなり師弟関係ができ始めている。
天華達はそのまま外に出ていった。俺は拠点内を自由に動き回れる権利を貰えたからこれからここの探索をしてみようと思う。いずれ味方になるであろう存在だからな…知っておいて損はない。
「あなたは、誰?」
突然背後から気配を感じて振り向くとそこに声の主はいなかった。
「そこじゃない」
この声、上か?
「こんにちは…で良いの?」
「ああ、良いと思うぞ?」
声の主は天井に張り付いていた。いや、張り付くと言うよりも立っているか。そして何よりもこいつの周りの不思議な感覚…これは粘着系で張り付いているわけじゃない。「お前……重力か」
少女は少し笑いながら、
「うん、正解」
と言ったのだった。