第十七話 悪魔
旧都新宿区
かつての災害の爆心地であった場所にとても悪魔組の拠点があるとは思えないんだが……まあ、自称幹部がそう言ってるんならそうなんだろう。
「ハエ、お前本当にここなんだろうな」
「勿論、任務のメインターゲットがいながらも罠に嵌めたりはしないですよ」
俺達は先生、俺、ハエの三人で新宿まで来ていた。辺りには何もなく、空は紫色の雲が覆っていた。あの紫色には見覚えがある。昔四人で触れた結晶の色と瓜二つだ。爆心地では未だに災害の影響が出ているのか。あの爆発には汚染などはなかったはずなんだが…爆心地ともなると変わってくるのだろうか。
「ああ、ここで合ってるだろう。懐かしい気配がする」
「それって…」
言い終わる前に黒い影が頭上を通り過ぎていった。
そして影は先生の前に降り立って先生に殴りかかった。
「よう美蘭、久しいなぁ。てっきり大罪のガキだけかと思っていたが、まさかお前も来るとはな」
「手荒い歓迎をどうも、ルシファー!」
二人のぶつかり合いは俺には全く見えなかった。まさに言葉通りに強さの次元が違う。能力頼りなわけではなく格闘もできる。これが三十年間最強を貫いてきた故の天井の強さなんだ。
「おい先生!そろそろやめとけよ!俺達は戦いに来たわけじゃないんだ」
「ほーん、お前が大罪のガキねぇ。強そうだ」
「まさか、あんたほどじゃないさ」
ようやくまともにルシファーの姿が見えた。筋骨隆々な身体に口の周りを覆う髭。客観的に見るとイケオジと呼ばれる見た目だろう。だが背中には天華とは違い黒い翼。さらに尻尾と角が生えていた。
「……お前、何不思議そうな顔してるんだ?」
「いや何、知り合いにあんたみたいな能力のやつがいてね」
「あー『天使』のことか?確かに俺とあいつでは見た目も強さもかけ離れている。だがな『天使』ってのは羽だけ生えているわけじゃねぇ。前任のジジイにはしっかり頭に輪っかがあった」
「何だと?」
「まあ、今の『天使』はまだ不完全ってこった。早いとこ育てないとあのガキ、死ぬぞ?」
おちゃらけているような雰囲気。それなのにあの強さだ。おそらくこいつの強さってのは天華が目指すべき完成形ってなんだろう。
「おい、ルシファー!なんだ?次は私の弟子か?」
「ハッ!それもアリだが今は良いさ。それより美蘭、ここに来たってことは俺の考えに乗るってことか?」
「……今はダメだ」
「今は?ってことは」
「条件付きだ。ウチの神話種がまだ不安定でね。覚醒を手伝え」
なんだその面倒な条件、あいつが乗るわけないだろ。
「良いだろう、『天使』のことだろ?俺が育ててやる」
乗るのか……
「あんた、本当に良いのか?先生の言葉にそんな二つ返事で了承しちまって」
「屈辱だが、美蘭がいるだけでこっち側の戦力は大きく強化される。それに、あいつは案外一度言ったことは守るんだぜ?」
こうして、天華の育成計画が始まってしまった。大丈夫だろうか……