第一話 旧日本へと
ふとした瞬間、過去の光景を思い返す。
どれだけ時間が経っても瞼の裏にこびりついたように離れずに地獄のような景色を時折思い出してしまう。
何の偶然かその場にいた俺達四人は友人、家族、と何もかもを失った。一瞬であの場にいた四人の子供は罪人として世界から追われる身となった。
この物語は四人の子供達が認められるための物語である。
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『近年、旧都荒らしの数が減少していると………また、悪魔を筆頭とした………組織が………人…工』
電波が悪いのかテレビの音が途切れ途切れになっている。
「はぁ………またぶっ壊れたかなぁ」
俺は窓から見える景色を眺める。周囲には人の気配が殆どなく、電波が通っているだけでも奇跡と言える様な立地だ。
「テレビを直すの苦手なんだよなぁ」
俺は重い腰を上げる様にテレビの近くに立ち掌を向ける。
ふと近くに置いてある写真へと目が向く。四人の子供と二人の男女が写っている。その内一人の男は、何とも写真に映るのが嫌そうな顔をしている。
気を取り直して力を込めようとしたところで、部屋の外からドタバタと騒がしい音がする。
「兄さん、今日予定ある?」
「……どうした?何か用か?」
俺は上げていた手を下ろして声の主に向けて身体を傾ける。声の主は俺よりも一回り大きくて青い髪をした青年である。
俺の名前は稲光明、そして今話しかけてきたのが稲光暗だ。あまり外見は似ていないのだが、歴とした兄弟である。
「さっき乃亜達に旧日本の方の見回りに行かないかって誘われたんだよ。兄さんも行くなら行こうかなって」
旧日本……いつまで経っても好きになれない響きの単語を聞いて一瞬身構える。ただ、暗の危機感の無さそうな表情を見て自然と力が抜ける。
「乃亜と龍とも半年近く会っていないしな。行ってやるか」
「やっぱり兄さんならそう言うよね。分かったよ」
俺たちは旧日本に向かうために龍に連絡を送った。
数秒後には龍が俺達を迎えに来た。
「うっわ、迎え早すぎ。暇なのか?」
俺は突然部屋の中に現れた龍の姿を見て自然と口が動いてしまった。
「せっかく迎えに来てやった親友になんて態度とりやがる。オマエ達二人だってずっと暇だった癖によ」
「何だと! これまで一回も俺に勝負で勝てたことない癖に」
「何! 明、お前だってな……」
「まあまあ、二人とも。一先ず乃亜の所に行ってから話そうよ」
俺と龍の会話を遮る様に暗が間に入り仲裁をする。
「そうだな……それじゃあ頼むよ」
俺は素直に龍の肩へと手を置く。
「弟のが大人だな。ったくこの兄は……」
「……へいへい」
龍の煽りを華麗に躱し瞳を閉じる。
次に目を開けた時、俺達三人は全く別の場所に立っていた。
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「やっと来た! 遅いよ明、暗、久しぶりね」
「よう乃亜、久しぶりって言っても数ヶ月ぶりだけどな」
俺達を出迎えたのは茶髪の若い女だった。
こいつは白雪乃亜、そして先程俺と暗を迎えに来たガッチリとした身体の男が神川龍、二人とも俺達兄弟の親友であり幼馴染だ。
「旧日本の見回りって言ってたけどさ、どこに行くんだ?」
「うーん…特に決めてないから四人で旧日本をぶらぶら歩きたいなぁって」
そう言って乃亜は髪をくるくると弄り始めた。
「雑なやつ。一応言っとくが危険な場所なんだぞ?」
「わ、分かってるわよ。流石に舐めすぎ。久しぶりだから気を紛らわそうとしただけよ」
「そうかよ」
そんなやり取りを側から見ていた暗と龍はやれやれと言った空気で顔を見合わせていた。
旧日本にも久しぶりに来る。今時こんな危険地帯へと好んで入る奴なんていないと思うのだが、旧日本に眠っている貴重な資料や財産を狙う者が存在するのもまた事実。その為、部外者による定期的な見回りを必要としていた。
「それじゃ行こっか! この私が先導してあげるわよ!」
乃亜は一人大声で一歩、また一歩とかなりのペースで進み始めた。
「今日の乃亜、テンションおかしくないか?」
「そ、そんなことないわよ」
あまり人の機嫌には敏感ではない俺でさえも薄らと感じていた。
「久しぶりに明に会えて嬉しいんだろ?お前実は明のことが……」
「ちょ! り、龍?それは言っちゃダメだって前言ったよね?」
突如、乃亜が龍の発言を大慌てで遮る。
「全く………心臓に悪いわよ」
乃亜は頬を赤らめながらも前に進む足を止めることはないのだった。
そんな会話をしてると突然空気が変わった。
ふと前を見ると、俺達を大柄の男が見下ろしていた。
「………旧都荒らしなんてまだいたんだな」
「今じゃかなり減ってるんだよ?偶然遭遇するなんて、明は運がいいね」
こんな偶然は求めてないのだが、とりあえず俺は気を引き締める。
「兄さん、相手する気だろうけど程々にしときなよ?」
「明、お前と普通の人間が戦ったら大変なことになるんだから加減するんだぞ」
「暗だけじゃなく龍までも……俺は力の加減っての、案外得意なんだぞ?」
「いや、敵が心配でね……」
「全くだ。旧都荒らしと言えども殺しは殺し。絶対にアウトだからな」
何とも仲間からの信用を感じないな。
さて、俺は気分を切り替えて目の前の大男の方へと身体を向ける。
「おい! お前、旧都荒らしだろ?国に突き出してやるから大人しくしてろよ」
「誰だ? 何だお前は! 正義の味方気取りか? たったのガキ四人で何が出来る。旧都は散歩には向かないんだ。とっとと散れ散れ」
「はぁ……分かっていたことなのだが仕方ない。力ずくで行くから覚悟しとけよ?」
瞬間、俺の手がとてつもない光を帯びた。
それでは、始めるとしようか。




