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顛末


 大きく開け放たれた扉、その向こうにはこの家の護衛だろうか、剣を落とした青年たちが転がる。使用人達は逃げ回るもの、青い顔をして壁際に座り込むもの、或いはその場にあった箒を持ちへっぴり腰で構えるものもいた。そんな中をずかずかと大股で近づいて来るルイスは驚き体を硬直させた義妹の頬に触れて無事を確認し「すまなかった」と呟く。そして即座にエルザに向き直り腰につけた剣を抜いた。


「忠告した筈だ。二度目はない、と」


 勢いよく首筋に突きつけられた剣がエルザの髪をかすめはらりと舞う。


「なんの、事でしょう」

「とぼけるな」


 地を這うような低い声にエルザは唾を飲み込んだ。


「リリアンを殺せば自分が王太子妃になれるとでも思ったのかい? はっ、勘違いも甚だしい」


 ルイスの言葉にエルザは不快感を露わに眉を顰める。

 彼らの剣呑な雰囲気に呆然としていたリリアンはふらふらとした足取りでルイスに近付きジャケットの裾を小さく掴んだ。


「あの」

「下がっていて、リリアン」

「お義兄様、わたくしエルザ様にお話が」

「だめだよ」


 リリアンがエルザの方に一歩足を動かすと、後ろ手で腕を掴まれ止められる。


「お義兄様……!」

「おっと、一足遅かったみたいだ」


 剣を突き付ける男。その男に対峙する女。そして裾の汚れたドレスを着て男の後ろで困ったように眉を下げる少女。

 あまりにも混沌とした状況に、兵士を引き連れ入ってきた王太子フェリクスはくすりと呆れ笑いをした。


「遅い」

「そう言うな。兵士も連れてきてやったというのに」


 ルイスはフェリクスの背後を見遣る。フェリクスの後ろに控える兵士が数人、そしてドアの向こうのロビーで使用人や警備の人間を制圧するものは十人を超えているだろうか。


「王太子殿下、これは一体どういうおつもりですか。こんな乱暴な」

「白々しい」


 フェリクスに抗議の声を上げるエルザにルイスが吐き捨てるように言った。こういう姿は出会ったばかりの頃には多かったがやはり見慣れない。


「エルザ嬢、あなたにはリリアン・ヴィリエ嬢の殺害を目論んだ疑いがかかっている」

「まさか、何かの間違いですわ。第一わたくし、あの日王城のパーティーには参加していなかったではないですか」

「おや、私は"目論んだ"としか言っていないのに。もしやもう既に殺害を実行しようとしていたのか? それも、王城で」

「なっ」


 王太子が問い詰めるように聞くと、エルザは非がないように振る舞っていた表情を崩す。その顔に王太子は満足そうに口角を上げた。

 王城でリリアンが毒を盛られた際、その実行犯であった男はその場で自害した。そのせいもあってか調査を進めても事件の黒幕が誰であるのか決定的なものとする証拠をフェリクスもルイスも見つけることができなかったのだ。

 誰であるのか推測こそできていても。


「違います、わたくしは! 証拠もないでしょう!」


 確たる証拠はたしかにない。しかしいくつか捉えたピースと、今、口を滑らせたことを王太子が聞いたから罪に問えないわけではない。未だに罪を認めようとしないエルザをどうしたものかとフェリクスが頭を悩ませると、彼らの話を静かに聞いていたリリアンが口を開いた。


「証拠なら、そちらに」


 テーブルの上を指差す。フェリクスが片手を挙げると兵士たちが見分を始めた。


「証拠、あったみたいだけれど他に何か言うことは?」


 ロビーで使用人を制圧していた兵士が二人、王太子の指示でエルザを捕まえ、それに合わせルイスはずっと構えていた剣を腰に納めた。


「エルザ様」


 納刀するのに手を離されたのを良いことにリリアンがルイスの横をすっとすり抜けエルザに近付く。


「リリアン」

「少しだけなので」


 伸ばされた手をそっと振り解き安心させるように笑う。それでも止めたそうな顔をしたルイスの肩をフェリクスがそっと掴んだ。


「エルザ様はフェリクス様を愛していたのですか」

「……まさか」

「ではどうしてわたくしを殺そうとしてまでフェリクス様との婚姻をお望みに?」


 リリアンが問うと、エルザが怒りに満ち溢れた表情に変わる。


「そんなの決まっているじゃない! 王太子妃になればこの国で最も尊ばれる女性になれる、この国で最も幸せになれる!」

「そうですか……」


 エルザの答えに、リリアンはちらりとフェリクスを見た。そして少し言い辛そうに唇を結んだ後、ゆっくりと口を開く。


「……王太子妃になればもしかしたら貴方の言うようにこの国で一番幸せになれるのかもしれません。ですが、わたくしは誰より幸せになるよりも、最も愛する人と幸も不幸も共に分かち合っていきたいと、そう思います」


 それは誰に向けての言葉なのか。リリアンはそれだけ言って義兄の方に向き直り頷く。それを合図に兵士たちはエルザを連行していった。


「リリアン」


 兵士たちの後を歩くフェリクスが扉の前で振り返り名を呼んだ。


「お前の答えとして受け取って良いのかい?」

「はい。……記憶喪失のわたくしでは王太子妃は務まりませんわ」

「はは、そのようだね」

次で最終話です。

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