器と魂
その器から排出された魂は微笑んでいた。
まるで愛しいわが子を見守るように。
その器は魂が見えない個体だ。
目を開けたとしても、自分のことなど見えないのに。
それでもその魂は、しばらく近くで見つめていた。
いや、器と言ってしまっては失礼か。
宿主とはいえ、一緒に過ごしたパートナー。
我が子とも言えるなら、 我が恋人とも言える存在。
彼女は魂が見られないだけではなく、理解もしていない。
ただ憑きやすいので、行き場のない魂は彼女の宿で休んでいる。
その魂はどうやらその子を気に入っていたらしい。
と、未練がましく傍で回っている魂を見て思う。
貴方たち、良いパートナーだったのよ。
たとえ宿主の生活に、その魂が入ることによる支障が出ても、彼女はまた来てくれることを望んでいる。
彼女の表情を見れば、それはわかるじゃない。
何で私がこんなことを思わねばならないのか。
本人たちが話せれば、いくらかいいのにね。
何しろ魂と器だから。共通の言語はあるにはあるが、学ばないと身に付かない。
魂の憑いた器同士で話して伝えるのが一般的。
だから悪霊が入り込まないよう、巫女の存在がある。