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面倒くさい幸せ

 キアラはカッタス国のマチルダ王女が気に入り、たまにチェルリア国に遊びに行く。

 その都度、メアリールにもチェルリア国の報告をしてくれるから、とてもありがたい存在だ。

 そして今日も、メアリールに近しい者の近況を教えてくれる。


 まず最初は、お気に入りのマチルダ王女のこと。

 必然的にオーランのことも聞ける。

 人質として嫁いだマチルダ王女は、最初こそオーランとの間はぎくしゃくとしたものだったが、最近ではオーランの気遣いに心を許すようになったという。

 オーランも自分の罰のこともあり、人質として嫁いできた王女を警戒していたようだが、彼女が父王を説き伏せて嫁いできたことを知り、その聡明さに次第に心を寄せるようになったそうだ。

 二人で穏やかに過ごす姿は、城で働く者の癒しとなっているらしい。


 オデットとオディールも、最初こそ気にくわないと嫁ぎ先で暴れていたようなのだが、そのうちに諦めたのか、嫁ぎ先で思いのほか優しくしてもらったからなのか、今ではそれぞれの夫と仲睦まじく暮らしているようだ。

 何故、城に遊びに行って二人の現状まで分かるのかというと、どうやらオーランが二人の姉から送られてきた手紙をキアラに見せているようだ。

 キアラの口からレピュテイシャンとメアリールの耳に入ることを予想したのだろう。

 やはり食えない男ではある。


 オリバーはというと、なんとポリアンナ・クライ伯爵令嬢を追いかけているそうだ。

 何故、クライ伯爵令嬢? と思うものの、レピュテイシャンに送られてくる手紙から、彼女への恋心が綴られていた。

 曰く、彼女はオーランの婚約者だった時とは打って変わり、淑やかな令嬢となっているそうなのだ。

 昔の天真爛漫な物言いは鳴りを潜め、仕草も拙いながら頑張っている。

 彼女曰く、オーランの好みがそういう女性なのだと勘違いしていたとのこと。

 相手に合わせなくていいと知った彼女は、誰にも見向きもされなくなったことをバネにして淑女教育に力を入れたのだそうだ。

 幸い、家にはオーランとの慰謝料がたんまりとある。

 父親である伯爵はそのお金を、ポリアンナに惜しげもなく出してくれている。

 磨かれた彼女は、オリバーの目には大層美しく見えているそうだ。

「オリバーの好みは、元々メルだろ。頑張り屋で淑女然としたところに以前は天真爛漫さがあったのなら、もろオリバーの好みになるだろうな。それにオリバーの甘ったれ具合から見ても、年上の方が似合いかもしれないぞ」

 レピュテイシャンが笑うのを、メアリールは不思議な気持ちで見ていた。

 オリバー様は結局、オーラン様が大好きなんじゃないのかしら?

 だからオーラン様のものが欲しくなる?

 あ、いや、やめよう。そう考えると、なんか気持ち悪いし。

 そんなことを考えてメアリールが首を振ると、レピュテイシャンがオリバーの手紙をひらひらと振る。

「けど、クライ伯爵令嬢はオーランに一方的に婚約破棄されただろう。メルと一緒でもう王族は嫌だと言っているらしい。オリバーの恋も前途多難だな」

 ハハハと笑うレピュテイシャンに、パズが俯いてニヤニヤ笑っている。

 パズっていじめっ子気質だから、オリバー様の困ってるところって好きそうだな。

 そういえばモア・ラギット男爵令嬢は、あの城で暴れて以来、ラギット男爵に親子の縁を切られ平民に落とされたと聞いたわ。

 けれど彼女は元々平民であったそうだし、あの逞しさだもの。それなりに幸せになっていることでしょう。

 メアリールはオリバーの彼女であったモアのことを考えたが、平民に落とされた彼女のその後はどこからも情報がない。

 それでもあの時の逞しさを思い出すと、彼女が落ちぶれて倒れている姿など想像できないのだ。

 きっとどこかで幸せに生きているはずだと、メアリールは目を閉じる。


 ふとメアリールは、後ろからお腹を撫でているレピュテイシャンにたずねてみた。

「諸外国はその後どう? ブリック国やチェルリア国に何か言ってこない?」

 大使達がいる場で色々な騒動が起こったのだ。

 箝口令を出して、オーランの件など隠したことは沢山あるが、最も心配なのはレピュテイシャンが見せた力のことだ。

 キアラの力など、ほとんどが魔道具によるものだと信じられているようだが、中には魔族だと疑った者もいるのではないか?

 そう心配するメアリールに、レピュテイシャンはニコニコと笑う。

「平気。そもそも魔物がいる以上、それを使った魔道具と言えばそれなりに信用性があるが、魔族と言われてもピンとこないのが人間だ。だって、本物の魔族を見たことがないからな。まぁ、目の前にいても人間って、私が魔族ですと言わない限り、信じないだろう。見るからに人間と異なる姿をしていたら、多少は納得するのかもしれないが」

 そう言われて、メアリールは確かにと頷く。

 メアリールもレピュテイシャンと会った時、子供の姿で頭に角が生えていてもそれが魔族の特徴だとは思わなかった。

 なんだろう、これ? 仮装かな? ぐらいの認識である。

 顔を上げると、そばで控えているカチアと目が合う。

 お互いに思うところがあったなと、苦笑する。

「だけどやっぱり、この力の探りを入れてくる国もいるにはいるが、表立っては何もできないのが現状だろう。なんていったって、この国には女神であるキアラ様がいるからな」

 ニヤッと笑うレピュテイシャンは、前でお菓子を頬張るキアラに視線を向けた。

 ん? と首を傾げるキアラは可愛い。


 キアラはチェルリア国とカッタス国、二国の魔物を一掃した女神と崇められている。

 たとえそれが魔道具の力であったとしても、それを己の力として使いこなせる者がそうそういるはずがない。

 男ならばそれなりに恐れられもするのだろうが、キアラは女性であり、この美貌だ。

 そして、さっぱりとしていて素直な性格。

 その英雄談は諸外国にも知れ渡り、一気に人気は高まった。

 そんな女性がいる国を害そうものならば助けられたチェルリア国、カッタス国に引き続き、憧れを抱く国にも敵認定される。

「キアラさまさまだよな」

 アハハと笑うレピュテイシャンに、キアラは首を傾げながらメアリールにたずねる。

「なんか分からんが、褒めているのか?」

「そうよ。キアラ様、大好き」

「そうか。私も好きだぞ、メアリール」

 そう言って喜ぶキアラがメアリールに飛びつこうとして、レピュテイシャンがそれを遮る。

「お腹に子がいるのを忘れるな。俺とメルの子供なんだぞ」

「ああ、すまない。楽しみだな~。すっごく可愛いだろうな~」

 へにょっと笑うキアラに、メアリールまで相好を崩す。


「そういえば、キアラは母上に会いに来たのではなかったのか?」

 レピュテイシャンがキアラに女王様はいいのかとたずねると、キアラは途端にぷっくりと頬を膨らませる。

「魔王が連れてった。ついて来るなと牽制された。久しぶりのデートだと言っていたぞ」

 デートってなんだ? と首を傾げるキアラは、どうやら置いて行かれたことに不貞腐れてここに来たようだ。

 ブリック国の女王であるレピュテイシャンの母親は、キアラ好みの儚げな美しい女性だった。

 とても優しい彼女は、同じ人間であるメアリールを喜んで受け入れてくれた。

 魔王であるレピュテイシャンの父親は、そんな女王様にベタ惚れである。

 まぁ、彼女の為に国を一つ作ったぐらいなのだから、それも当然だと言えよう。


 キアラは「レピュとメアリールのデートには、私も連れて行け」と言う。

 レピュテイシャンに呆れた表情をされながら、パズに「無知ですね」と言われて怒るキアラ。

 隣では、カチアも笑っている。


 メアリールは幸せをかみしめる。

 色々と面倒くさい人生だったけれど、こんな幸せの為ならもっともっと頑張れるわ。

 面倒くさいことなど一つもない。

 メアリールは、レピュテイシャンの端正な横顔に見入る。


 先程からメアリールを一時も離さず、あれこれと世話を焼く最愛の旦那様の胸にもたれながら、メアリールは二度と自分が面倒くさいなどと思うことはないのだろうと、膨らんだお腹を撫でながら微笑むのであった。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

今作は色々と考え悩む事がありまして、試行錯誤してどうにか仕上がった作品でした。

ですので、随所にあたふたと悩みもがいている所が見え隠れしています。

豆腐メンタルな作者は人の意見に左右されるので、ハッと我に返ると書けない状態に陥っていたのです。

しかし途中で、拙文なのは分かっている。でも元々、趣味の延長線上で投稿させていただいているので楽しんだ方がいいよね。と開き直ってしまった結果、最後まで書き上げる事が出来ました。

これも読んでくださっている方がいるお蔭です。

本当にありがとうございました。

感想の方は返事が書けるかどうかは分かりませんが、落ち着いたら再開させていただく予定です。

ヘタレ作者で申し訳ありませんが、懲りずに頑張りたいと思いますので、宜しければ引き続きお付き合いくださると嬉しいです。

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