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第三王子の案

 オリバーはレピュテイシャンの前に跪くと、第一王女に視線を向けた。

「オデット姉上には、今回功績を上げたポールテ辺境伯の後添えに入ってもらう」

 突然、発せられた辺境伯の名にオデットは面食らう。

「え? オリバー、何を言っているの? 辺境伯はもうかなりの年よ」

 辺境伯は六十歳に近く、病気を患っていた。

 だからこそ、今回カッタス国は長年睨みを利かせていた辺境伯が寝込んでいる状態を勝機とみなし、戦争をしかけてきたのだ。

 オデットがそう言うと、オリバーは首を横に振った。

「レピュテイシャンの薬で元気になった。カッタス国とは和解したとはいえ、彼にはまだまだあそこで目を光らせてもらわなければならない。彼を支えることが姉上の罰だ」

「ちょっと、私はまだ二十代よ。実の姉にそんな酷い結婚を強いる気? それでも弟なの?」

 キッパリ言い切る弟にオデットは悲鳴を上げるが、オリバーはそのままオディールへと視線を向ける。

 ビクッと体を揺らすオディール。


「オディール姉上には、今回我が国とカッタス国との間で迷惑をこうむったウーリー国の公爵家に嫁いでもらう」

「なっ、ウーリー国って、あんな小国に? しかも王族ではなく、公爵家に?」

 オディールは信じられないというように、声を荒げる。

 まさか弟が姉である自分を小国に売り飛ばそうとするなんて……しかも、格下に。

「辺境領と同じように間に挟まれた小国のウーリー国には、多少なりとも魔物の影響もあったと聞く。姉上がウーリー国に嫁げば、チェルリア国が公に援助できる。でも王族では、姉上はまた勘違いをして過ちを犯すかもしれない。降下して、上には上がいるのだということを分かってもらう」

「そんな……」

 有無をも言わせない迫力に、今まで知っている弟ではないと悟ったオディールは、そのまま言葉を濁らせるしかなかった。


 因みに、オデットとオディールによる王妃の宰相への恋心は、盛大な勘違いであることが判明した。

 王妃の部屋にあった手紙は、娘時代に宰相の妻である公爵夫人との間で交わした手紙であり、それにしたためられていた宰相への想いは公爵夫人のものであった。

 そして王太子殿下で辛いという文字は、いずれ王妃となる重責に病弱な自分が耐えられるかという話しをしたところ、今の陛下である王太子が「必ず自分が守るから、心配いらない」と言ってくれた結果、これから先迷惑かけるであろう未来に対して、優し過ぎる王太子殿下で辛いという、いわゆる惚気であった。

 それを離宮から駆け付けた母である王妃に、オデットとオディールがぶつけたところ「馬鹿な子達……」と呆れながら真実を話してくれたそうだ。

 オデットとオディールが、その時点で意気消沈していたことは間違いない。


「そして、オーラン兄上には……」

 項垂れるオデット、オディールの横で凛と前を向いて、どんな罰でも受け入れると頷くオーランにオリバーは一瞬、声を詰まらせた。

 流石、オーラン兄上だ。ちゃんと己の罪と向き合っている。だから、俺もハッキリと自分の意見を言うんだ。兄上に認められないと。

 オリバーはオーランの瞳を真正面に捕える。

 そして皆に聞こえるように、堂々と発言した。

「カッタス国のマチルダ王女を娶ってもらう」

「オリバー……」

 考えてもいないことを言われて、オーランは目を見開く。

 オーランのやったことは、大罪だ。

 国を裏切って敵国の者を招き入れたのだ。

 そしてあろうことか、要人をさらわせようとした。

 決して許されることではない。

 敵国の王女を娶る程度では、罰にならない。

 甘過ぎると言いたいが、オリバーの瞳には容赦などしてやらないという意志が見えた。

 オーランはごくりと唾をのむ。

「兄上は、俺とは違って貴族にも民からも好かれている。この国には、兄上の力がまだまだ必要だ。だから国の為に、その身を粉にして働いてもらう。兄上には個人の想いも封印してもらう。プライベートも国に捧げるんだ。その最たるものが結婚だ。敵国であった国の王女を人質として、朝から晩まで見張ってもらう。それが兄上に課せられた罰になる」

 ハッキリとした言葉に、誰もが声をあげられないでいた。

 自分の気持ちを優先して国を危険にさらした男に、心を失くせと言っているのだ。

 二度とその想いに振り回されることのないよう、己を殺してその身を捧げよと言っている。

 オリバーの気持ちに、オーランは首を垂れる。

「……意のままに。この身を国に捧げます」



 そのままオリバーの考えた案は、採用されることとなった。

 親馬鹿の国王陛下は、己の子を牢に閉じ込めなくてすんだと安堵して頷き、宰相に頭を叩かれていたが、レピュテイシャンがそれを良しとしたことが決め手となったのだ。

 王族を最善に利用した方法だと、上層部にも受け入れられた。

「なかなかやるじゃないか、オリバー」

 そんな風にレピュテイシャンに褒められて頭を撫でられたオリバーは、俯きながら頬を染めた。

「オリバー、少し見ない間に立派になったな」

 オセアンにも褒められたが、オリバーはレピュテイシャンに褒められた時ほどの高揚感は得られなかった。

 オリバーは、レピュテイシャンとメアリールに熱い視線を送る。

 俺はもっと立派になる。

 もっとしっかりした王子になって、いずれ堂々とレピュテイシャンとメアリールにチェルリア国の大使として会いに行ってやる。

 そう決意したオリバーを見て、パズはニヤニヤと笑う。

 人間ってのはそうそう本性は変わらないものだ。あの王子、絶対空回りするぞ。



 そして、レピュテイシャンとメアリールは無事にブリック国へと戻り、三年の歳月が過ぎた。

 レピュテイシャンの膝の上に座るメアリールのお腹には、新しい命が芽吹いている。

 お腹の子供にもお菓子を食べさせようと、一生懸命メアリールの口に運ぶレピュテイシャンにそろそろ注意をしようとした瞬間、お菓子がサッとその場からなくなった。

「おい、キアラ」

 レピュテイシャンが眉尻を上げて怒るのを、意に介さないキアラがパクパクとお菓子を口に運ぶ。

 内心、助かったと思うメアリールはキアラに「チェルリア国は、どうでした?」とたずねた。

 キアラは満面の笑顔で「平和だったぞ」と言った。

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