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同名の留学生

「レピュテイシャン・アスモ・ブリックだ。よろしく頼む」


 目の前にいるのは、先日道端に倒れていた子供……では、ない。

 メアリールより頭一つ分は高い、浅黒い肌の美丈夫だ。

 ただ名前だけではなく、髪の色も瞳の色もあの子供とそっくりだった。

 しかもこの信じられないくらい整った顔は、あの子供をそのまま大人にしたら、この顔になるだろうと予想される顔立ちで、違うのは肌の色と頭の角のような突起物がないというだけだった。

 一度見て免疫のあるメアリール以外の者は、全員彼の顔に釘付けになっている。

 美形を見つくした王族でさえ動けずにいるのだから、相当だといえよう。


 ここは城の謁見の間。

 本日、遊学に来られた他国の王子様を迎えるため陛下をはじめとした王妃と王子三人、王女二人の王族と、メアリールの父である宰相といった国の重鎮が集まっていた。

 そんな中、何故かまだ学生であるメアリールが同席している。

 第三王子の婚約者、という立場でいる訳ではない。

 その証拠に、第一王子の妻と第二王子の婚約者は同席していないのだから。

 では何故? というと目の前の青年レピュテイシャン、ブリック国の第一王子が、この国に遊学に来たからだ。

 通う学園はもちろん、貴族の学園マルチカ。

 そうなるとお世話係が必要となる。

 必然的に現在学園に籍を置く高位貴族が、その役に付かなくてはいけない。それが第三王子と婚約者のメアリールだった。



 先日、その話をしに第二王子がわざわざ学園に会いに来たのだ。

 お父様の口からでよかったのに。と思うメアリールだったが、今回第二王子が彼の滞在中、王城での指揮を取るということで、気を使っているのだろう。



 正直、遊学の打診の書状が届くまで、そのブリックという国を誰もが知らなかった。

 慌てて、この世界の地図を丸暗記しているといわれている自然地理学の第一人者、ビオネット博士が城に呼び出された。


 彼によると、ブリック国はさほど大きな国ではない。だが、魔物がはびこる森が多いため魔物を退治した際、魔石を見つけ魔道具にしたのはこの国だったそうだ。

 そんな偉業を達成したはずの国が、他国に知れ渡っていないのは何故か?

 博士によると、魔道具は商人の手により他国へと流通されたそうだ。

 魔道具を扱う商人は、できるだけ長く利益を得たい。

 魔道具の出先が知られなければ自分達が独占できると、商人が商人を介していき、出所を分からなくしたのだ。

 これだけ聞けば、商人にいいように利用された小国で、正当な魔道具の価値も分からないのではないだろうかと心配になるが、この国の王様は知恵ものであった。

 商人が自分達の利益のためにそのような行動をとったこともお見通しの上で、金額はそれに見合ったものを算出し、他国の余計な介入が入らないように、逆に商人達を利用したのだ。

 海に接するブリックの国は、片面に三つの国と隣接している。

 だが、隣国との間には全てに魔物の森があり、ブリックに行くにはその森を通らないといけない地形となっている。

 商人も海からの出入りとなるため、簡単に余所者が入り込むことはできないのだそうだ。


 博士はそれらの裏話を、チェルリア国の王族と重鎮の顔を見ながら、とても楽しそうに話して聞かせた。

 ブリックという国は、大変興味深い国だと。

 どうやら商人の一人が、博士との会話の中で商人同士の噂としてポロリと口を滑らせたようだ。

 そこから博士の好奇心がうずき、徹底的に真相を調べたのだろう。



 そういった理由でほとんどの国が、このブリックという国を認知していないのだが、その国の第一王子がチェルリア国を選んで遊学してきた。

 博士の話を聞いた重鎮達は、首を傾げた。

 どう考えても、ブリック国との繋がりがないのだ。

 だが、先程も述べたようにブリック国は魔道具のお蔭で小国とはいえ裕福だ。

 これを機に友好国となれれば魔道具も入りやすくなるし、かの国は他国との繋がりも少ないので、有利に我が国の品物を輸入できるかもしれない。

 博士の好奇心が、良い判断材料になった。

 ブリック国の第一王子を我が国に迎えるのは、利益しかない。

 チェルリア国が拒否する理由は、一つもないのだ。


 そうして舌なめずりで迎えた小国の王子様は……美し過ぎた。

 五人のお供を連れてやって来たのだが、その者達も王子ほどとはいわないが、皆整った顔をしている。

 服装もこの国と、さほど変わらないデザインではあるが、一つ一つに刺繍や宝石が散りばめられ、贅を尽くした華やかなその迫力に、全員言葉を失ったのだ。


 誰も何も言わない中、他国の第一王子と目が合ったメアリール。

 子供のレピュと全く同じ名を持つ王子に、複雑な感情はあるが、それを表に出すことなくニッコリと微笑む。

「貴方が、学園での俺の世話役をしてくれるメアリール嬢だな」

 声をかけられたメアリールは、一歩前に出てカーテシーをとる。

「僭越ながら、ご挨拶させていただきます。メアリール・コルアンと申します。この度、陛下よりレピュテイシャン・アスモ・ブリック殿下のお力になるよう仰せつかりました。ご要望がございましたら、なんなりとお申し付けくださいませ」

「フフ、なんなりとなんて言われては期待してしまうな。こちらこそよろしく頼む」

 一瞬、メアリールの手に視線を向けたブリックの王子様は、流し目に色気を込めて、エアリールを見つめ返す。その表情に、その場にいる全員が顔を赤くする。

 いつもならそのような戯言を言われれば、余計なことは言うなと思いながらも「お戯れを」と言いホホホと笑うメアリールであったが、どうしても子供の姿のレピュと重なり、つい言葉を失くしてしまった。

 メアリールの手には、あの少年がくれた魔道具の指輪がキラキラと輝いていた。


 その二人の態度に、第三王子が慌てて口を挟む。

「失礼。私はこの国の第三王子オリバー・ルード・チェルリアと申します。その者は私の婚約者で、学園でのお相手を私と共にさせていただきます」

 ずいっと何故かメアリールを後ろに追いやる第三王子。

「そうですか。王子が教えてくれるのなら心強いな。ですが、王子なら何かと忙しいでしょう。無理はなさらないでください」

「心遣い感謝いたします。ですが、レピュテイシャン殿下のお相手も私の大事な公務ですので、お気遣いなく」


 ニコニコと笑い合う王子二人は、不穏な空気を身にまとう。

 何やってんの、この二人?

 とりあえず挨拶を進めなければと思ったメアリールが口を開こうとした瞬間、グイッと後ろから第二王子に腕を引っ張られた。

「オーラン様?」

「殿下には、あまり近付かない方がいいかもしれないね」

 笑顔でそんなことを言ってきた第二王子に、世話役に選んだのは貴方でしょうが、と呆れながらも、陛下とお父様を見る。

 二人はまだ呆然とした顔をしていた。

 メアリールは思った。


 ――めっちゃ、面倒くさい。

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