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嫉妬と救出

 ソファから立ち上がり、執務室から出て行こうとするメアリール。

 その手を慌てて掴み、立ち止まらせるオーラン。

「待ってくれ、メアリール」

「離してください。オリバー様との婚約破棄は、そちらから申し入れられたものですよね。先程も申しましたが、それなら私にこれ以上の王族との婚約は、申し入れないでください」

「君は私を嫌いではないと言った」

「だからなんですか? 嫌いではないけど、好きでもないです」

 喧々囂々と喚き散らす二人に、国王と宰相、第一王子と第三王子は唖然としてしまっている。

 普段穏やかな二人が、こんなに大きな声で言いあっている姿など初めて見たのだ。

 しかも、オーランは興奮してメアリールを呼び捨てにしている。が、二人ともそのことに全く気付きもしていない。


「とにかく落ち着いて、メアリール」

 そう言って、オーランはメアリールを抱きしめた。

 その行為に、驚きと恐怖を感じたメアリールは咄嗟に叫んでしまった。


「助けて、レピュ!」


 その叫びと共に、メアリールの指輪からカッと眩い光が飛び出した。

 オーランはその光に弾き飛ばされるように後方へと飛び、オセアンとオリバーが慌てて抱き留める。

 どうにか壁への衝突だけは免れたものの、光は一向に収まる気配をみせない。

「メアリール、これは一体……お前は無事なのか? メアリール!」

 宰相である父親が、娘の安否を確認するように叫ぶが、光からはなんの反応もない。

 扉の外で待機していた護衛が、慌てて扉を開けるものの、その光にはどうにも近付けない。

 とにかく避難をと、国王と王子三人を部屋から連れ出そうとするが、オーランは頑として動こうとはせずに、光に向かって叫ぶ。

「誰か……早く、中を確認しろ! メアリールの安否を……」

 だが、光はますます強くなるばかりで、誰もどうすることもできない。



「あ~らら」

 騒然とする室内に、呑気な声が響き渡る。

 一斉にそちらを向くと、廊下から異国の王子レピュテイシャンと側近のパズがゆっくりと中に入って来た。

「誰かメルに嫌なことした?」

 チラリと一同を見るレピュテイシャンに、食って掛かったのはオーランだ。

「そんなことするものか。貴様が、貴様がメアリールをこんなにしたのか? 彼女は無事なんだろうな? 早くここから出せ!」

 今にもレピュテイシャンに飛び掛かりそうになるオーランを、オセアンとオリバーが必死に止める。

「本性見えてるよ、オーラン殿下。これは俺が送った魔道具。メルが危険な目にあった時、守るように設計されているから、彼女は当然無事。今は光の繭の中だな」

 そう言うと、光に手を翳す。

 すると光は徐々に弱まっていき、数秒後には完全に消えた。

 中央にはレピュテイシャンの言う通り、人の大きさほどの白い繭が一つ転がっていた。

 驚く周囲をよそに、レピュテイシャンはその繭に近付いて行くと、外から軽く手を翳す。

「メル、迎えに来たよ。出て来て」

 そう言うと、繭が勝手にピシリっとひび割れた。

 パッカリと中央で割れた中から、メアリールが横たわっている姿が目に入る。

 真っ白な綿に横たわる赤い髪の美しい少女。

 皆その光景に目を奪われる。


「おはよう。起きて」

 レピュテイシャンが声をかけると、ゆっくりとその瞼は開かれる。

 そうしてレピュテイシャンを確認したメアリールは、徐に彼に手を伸ばすとべそっと顔を崩した。

「レピュ~~~」

「はいはい。メルを泣かすなんて悪い人がいたもんだな。怖かったね、よしよし」

 レピュテイシャンは、幼子のように泣きべそをかくメアリールを横向きに抱き上げると、繭の中から連れ出した。

 メアリールはレピュテイシャンの首に腕を絡ませると、そのまま彼の胸に顔を埋めてしまった。

 慌てて近付いたのは、父親である宰相。

「殿下、メアリールを救ってくださり、ありがとうございました。城ではゆっくりもできませんでしょう。このまま我が家にメアリールと共にお行きください。後のことは私がいたします」

 ペコリと頭を下げると、小さく蹲っている娘を優しい目で見つめた後、レピュテイシャンに屋敷に行くよう促す。

「メルと一緒の別邸でもいいか?」

「ご存知でしたか? はい、そちらにご用意いたします。馬車も直ぐにご用意を」

 少し驚いた表情を見せる宰相が、そう言い終わらないうちに、レピュテイシャンは窓に向かって歩いて行く。


「いらない。こちらから行く。パズ、行くぞ」

 そう話すと突然、背中からバサッと黒い翼を出現させた。

 側近のパズも同様に、黒い翼を広げる。

 ガっと窓枠を蹴り上げると、そのまま空を飛んでいく三人に誰も身動き一つ、声すら上げられなかった。


「……今のは……」

 姿が見えなくなった空を見上げるオセアンが、震える声で呟いた。

 その声に反応するかのように、パッと窓枠に近付くオーラン。

「……化け物だ」

「そうだろう。だから俺が言ったんだ。奴は化け物だって」

 オリバーはオーランの言葉を借りて、自分が見たものは間違いなかったと主張する。


 息子三人が騒ぐ中、国王は宰相に近付く。

「……あれが、魔道具の力か?」

「そうでしょうね。あれほどの力は見たことがありませんが、おそらくは。しかし、これでハッキリしました。他国に出回っているのなんて、ほんの一握りなのでしょう。ブリック国は予想もつかない力を、まだまだ隠し持っているのに、間違いありませんね」

 淡々と述べる宰相に、ゴクリと唾を飲み込む国王。

「それでは我が国は、いや、他の国もかの国が本気を出せば一瞬にして滅んでしまうのではないか?」

「そうでしょうね」

 相当深刻な会話をしているはずなのに、どこか楽し気な様子の宰相に眉間に皺を寄せる国王。

「……今の会話でどうしてお前はそう、のほほんとしていられる?」

「はぁ、娘が気に入られてるから、でしょうか? レピュテイシャン殿下が力を誇示するのは、いつも娘の為ですからね。やはり私の娘は特別だということですね。いや~、流石私の娘です。ハハハ」

 頭を搔きながら屈託なく笑う宰相に、ポカンと口を開ける国王。

「いや、色々と間違っているぞ、お前。……ちょっと、待て。だからお前は王族に嫁がせたくないと言っていたのか? 自分の娘は特別だから、王族なんかにはもったいないと」

「あ、バレました?」

「~~~~~~~~~~」

 音にならない国王の叫びが響く中、のほほん宰相と揶揄されたメアリールの父親は、心の中で溢れる怒りを静かに嘲笑に変えていた。


 ――ふざけるな。どこまで私の娘を振り回す気だったのだ? レピュテイシャン殿下が守ってくださらなければ、今頃メアリールの心はどうなっていたか分からない。

 宰相として友として、国王のそばに居ると決めた自分は、我儘な王族にどれだけ振り回されようが我慢もできる。だがこれ以上、メアリールの気持ちを無視した行動をとるのは絶対に許さない。

 先程の娘の態度からもハッキリした。

 私はレピュテイシャン殿下の手を取ろう。


 宰相はゆっくりと室内を見渡す。

 メアリールの後を追おうと暴れるオーランを護衛の騎士と共に必死で止めるオセアンと、蹲って「やっぱりあいつは化け物だったんだ。俺は金輪際、あいつとは関わらないぞ」とブツブツ呟いているオリバーと「この国を守る為には、この国を守る為には、この国を守る為には……」と騎士達に囲まれながら、部屋を出て行く国王の姿を見つめる。

 そうして先程まで、我が娘を守るかのようにその身を包んでいた繭に目を止めた。

 日の光を浴びて、なんとも美しい。

 これほどの繭は、今までお目にかかったことがない。相当上質な布が、大量に作れるだろう。

 騒然としている室内で、宰相だけが繭を見つめながらニヤニヤと笑みを浮かべるのであった。

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