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異国への勧誘

「え、眠っているだけですか?」


 突然、目の前でモアが倒れ込み、クラスは騒然となった。

 メアリールは彼女のそばに駆け寄ろうとしたのだが、レピュテイシャンに止められてしまった。

 そこに細身のパズがひょいと後ろから顔を出すと、彼女を肩に担ぎこんでしまったのだ。

 流石に貴族の令嬢を肩に担ぐのはよくないんじゃないのかと言ったら、とてつもなく嫌な顔をされ『本来なら触りたくもないのですが、宙に浮かすわけにはいかないでしょう?』と小声で言われ、それ以上は何も言えなくなってしまった。


 治療室に運ばれた彼女はどうやらぐっすり眠っているようで、医師には目が覚めたら帰すから放っておいていいと言われた。

「なんの前触れもなく、突然眠る人なんて初めて見たわ」

 呆れ気味にそう言うと、レピュテイシャンは「俺も」と言って、クスクス笑った。

「……レピュは、何も関係ないよね?」

「もちろん。俺は何もしてないよ。俺はね」

 あまりにも上機嫌で笑うので、そうたずねてみたのだが……レピュは何もしてないと言うので、信じることにした。

 うん、保身って大事だと思う。



「ところで、先程の話しの続きをしてもいい? 魔道具、レピュが作ったって本当?」

 メアリールは治療室から教室に戻る途中、中庭のベンチを見付け、そこに二人を誘って聞いてみた。

 今は授業中なので、周りには誰もいない。

 本来ならばすぐに教室に戻らないといけないのだが、真面目なメアリールには珍しくこの時は魔道具の話しが気になって仕方がなかったのだ。

 レピュテイシャンは長い足を組むと「俺とパズね。頭いいから、こいつ」と後ろに控えるパズを指さした。

「最初に作り上げていたのは、レピュテイシャン様ですよ。私は改良に手を貸しただけです」

「でも俺は色々くっつけただけだからな。実用品にしたのはお前だろ」

 主従二人は、お互いに相手の功績だと言う。

「まぁ、共同で色々してたら、いつの間にか増えていたってのが、真相かな」

 アハハと笑いながら、二人は今までのも魔道具について簡単に説明してくれた。

「今は興味のある者にも教えて、他国に売る物は彼らに任せている。けれど、新しい物はまだ俺達が手掛けている状態だな」

 他の奴も新しい物を作ってくれたらいいんだけど。と言う二人は、本当に魔道具作りが楽しいのだろう。


 そんな二人を見ながら微笑んでいたメアリールだったが、ふと心配になってたずねてみた。

「魔道具作りは二人が要なんだね。でもそんなこと、もしも他国の人に知られたら二人の身が危ないんじゃないの?」

 眉根を寄せるメアリールに二人はキョトンとして、首を傾げる。

「魔族なんだけど、俺達。たかが人間に捕まったりはしないし、捕まったところで、簡単に逃げれるんだけど」

「あ、そうか。そうだったね」

 二人があまりに普通だったので、そんな大事なことがすっかり頭から抜けていたメアリール。

「それなら大丈夫ね。良かった」

 ホッと胸を撫でおろす仕草に、二人は顔を見合わす。

 するとレピュテイシャンはニヤリと笑い「やっぱりメルはいいな。俺と一緒に国に来ない?」と自然に誘いをかけてきた。

 放心するメアリールに「いいですね、それは。メアリール様なら私も大賛成です」とパズまでニコニコと笑っている。

「え? 何言ってるの、二人共? そんなこと、できるはずないじゃない」

「どうして?」

「私はこの国の第三王子の婚約者で、宰相の娘なのよ。そんな私が国を捨てられるはずないでしょう」

「そうかな? 第三王子にはさっきの女がいるじゃないか。公爵令嬢の立場なら俺の妃に向かえれば問題ないと思うんだけど。それこそ友好国としてなら、王様もメルの父上も喜ぶんじゃないの?」

「え?」

「俺が来てって言っているのは、妃として迎えたいってことだよ」

「………………あっ」


 そこで初めて、メアリールはレピュテイシャンにプロポーズされているのだと分かった。

 思考が止まる。

 え? なんで、なんで? なんで急にプロポーズ?

 しかも婚約者がいる女に……なんで?

 ジッとレピュテイシャンが、メアリールの目を覗き込む。

 その仕草にカッと頬が赤くなり、挙動不審になるメアリール。

 だって、だって……どうしていいか、分からない。


 メアリールは公爵令嬢だ。

 結婚相手など、宰相である父が否応なしに連れて来るものである。

 現実にそうだった。

 恋を知る前に、この国の最高権力者に相手を決められた。

 三人のうちの誰か?

 一人は相手から断り、一人は必死で逃げ、最後の一人に捕まった。

 これでも公爵令嬢のメアリールからしたら、頑張った方だと思う。

 だって、誰もがメアリールに王子の婚約者としての立場を押し付けてくるだけで、メアリールの気持ちを理解しようとはしてくれなかった。

 皆がメアリールを王子の婚約者として、才女であるメアリールを欲しがったのだ。

 ただのメアリールを欲しがった人など、一人もいない。

 だから誰も恋など教えてくれなかったのだ。


 メアリールはジッとレピュテイシャンを見る。

 この人はメアリールの、自分の何が欲しいのだろうか?


「因みに、メルが俺の国に来てすることは、俺と一緒に行動すること。魔道具作りを手伝ったり、民の話を聞いてよりよい国作りを考えていくこと。かな」

 メアリールの言わんとすることが分かっているというように、レピュテイシャンはニコッと笑う。

 しかし、メアリールは何を言われたか理解できなかった。

「え、社交は? 貴族同士の他国との付き合いは……」

 妃ともなれば当然ついて回る義務を口にしないレピュテイシャンに、メアリールは不審な顔をする。

「俺の国、ほぼ鎖国状態。魔道具で繋がりを作ってはいるけれど、それは商人を通しているし、他国と付き合いしないからってさほど困ることもない。なんていったって、魔族ですから、俺達」

 ニヘラと笑うレピュテイシャンに、メアリールはああ、そうだったなと納得する。

 なんとなく視界が開ける。

 そんな感じがしたのだ。

 そうか、レピュは公爵令嬢の私を必要とはしないんだ。

 だって、魔族だもんね。私の力なんか必要としない。自分達でなんとでもできる種族なんだもん。

 そうか……公爵令嬢……いらないんだ……。

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