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やり過ぎた少女

 レピュテイシャンが、本当に子供のレピュと同一人物だと知ったメアリールは、学園でもすっかり普通に話しをするようになっていた。

 もちろん他の生徒が近くにいたり、話が聞こえる距離にいる場合は元に戻すが、基本的に皆、遠回しに自分達を見ているだけで、話しかけてくる者はほとんどいない。

 パズにも話しは通っているので、気負うだけ損だと感じたのだ。



 今もまた、教室のレピュテイシャンの席で三人会話をするが、誰も近付いてはこない。

 メアリールは手をプラプラと振り、レピュテイシャンに話しかける。

「レピュ、ところでこの指輪はいつ外してくれるのかしら?」

「あれ? それはプレゼントだって言ったよね。魔道具なんだから、役目が終わるまで外れることはないと思うけれど」

 教科書に目を通していたレピュテイシャンは、小首を傾げる。

「役目って?」

「魔除けだからね。メルが嫌な目にあいそうになったら、守ってくれるよ。発動したら自然となくなるから、気にしなくていい」

 正確には魔除けというより、防犯道具? と笑い、第三王子が怒鳴った時は俺がいたから発動しなかったんだ。と言う。

 そんなレピュテイシャンに、メアリールは少しだけ顔が赤くなる。

 そうか、自分はあの時からレピュテイシャンに守られていたのだなと。


 メアリールはなんともなしに指輪を眺めていたが、そういえば指輪の魔道具は初めて見たなと考える。

 基本、魔道具といえば小物のような小瓶だとか短剣などが多いはず。

「装飾品の魔道具なんてこの国にはないから、今のところ誰にも気付かれていなくてありがたいわ。これは他の国には流通しているの?」

 そう聞くと、レピュテイシャンは首をフルリと横に振った。

「いや、まだ試作段階なんで、世界にあるのはこれ一つ。基本、魔石はその物単体で使用するんだけど、これは見ての通り小さくカットしてある。それで機能が果たせるかというのが、検証中。ただ、違う用途で試した物は一応成功しているから、後はこういった方面も効くかどうかだね」

 そう言われてメアリールは、ますます希少な物だったのかと驚くが、少しだけ悪戯心が湧き、レピュテイシャンに上目遣いでたずねてみた。

「それって、私は実験台なのかしら?」

 メアリールの言葉に驚き、動揺するレピュテイシャン。

「え? いや、そういう気持ちはなかったけど、確かにそう言われればそうかも……。ただ、あの中でプレゼントできる物がこれだけだったから。通信機のピアスとか水が無くならない水筒とか、髪が綺麗になる櫛とかもらっても困っただろう?」

 慌てるレピュテイシャンとは対照的に、メアリールは彼があげた魔道具の中の一つに興味が惹かれた。

「あら。私、櫛の方が良かったわ」

「え、そうなのか? メルはもう十分に美しい髪をしているから、必要ないと思っていた」

 キョトンとした表情で、素直に答えるレピュテイシャン。

 シンプルに褒められて、メアリールは顔が赤くなる。


「分かった。櫛が欲しいなら持ってこよう。学園で渡していいか?」

 確認してくるレピュテイシャンに、今度はメアリールが慌てて首をブンブンと横に振った。

「いいわよ、そんなの。催促した訳じゃないわ。私はこれで十分。ありがとう。反応があれば、また報告するわね」

 そう言って、大事そうに指輪をもう片方の手で包み込む。

「遠慮することないぞ。どうせ俺が作った物なんだから」

「え?」

「魔道具の発案者は、俺とパズだ」

「~~~~~~⁉」



 またもや衝撃の事実を聞いてしまったメアリール。

 大声を上げそうになったが、慌てて口を塞ぎ、どうにか声を出さずにすんだ。

 だが、淑女の鑑と呼ばれる彼女がとった自分の口を塞ぐという行為は、他者の目に不審に映り、教室内にいる生徒の視線はメアリールに集中してしまった。

 どうしようかと冷や汗をかきはじめるメアリールに、パズが「そうなんですよ、メアリール様。他国ではそういった計算方法もあるのです。画期的で驚いたでしょう」と話しをすり替えてくれた。

 周囲も物知りのメアリール様が知らなかったのなら、驚いても仕方がない。と好意的にとらえてくれた。

 しかし、それほどの計算方法とはいかなるものかと、同時に興味ももたれてしまった。

 聞き耳を立て始めた周囲の前で、そのまま魔道具の話しをするわけにもいかず、三人は話しをすり替える他なかった。


『後で詳しく教えてね』

 メアリールはレピュテイシャンの耳元に、そっと囁いた。

 すると「信じらんなぁ~い!」という、無駄に大きな声が響き渡った。

 振り向くとそこには扉を開けたままの、モアがいた。

 勝手にズカズカと入って来る、他のクラスのモア。

 レピュテイシャンとパズは、ちゃんと帰ってこれたんだ。と生ぬるい目で見てしまう。


 第三王子の取り巻き、ペルタとジェミが血相を変えてモアのそばに走って来る。

 主が休みでも、二人はちゃんと教室にいたのだ。

「モ、モア。何をしてるんだ? こっちに来い」

 慌ててモアの腕を引っ張る二人。

 モアは二人を見ると、仲間が来たというように意気揚々と話し出す。

「ペルタとジェミも見たでしょう、今の。オリバー様がいないからって、酷いと思わなぁい?」

「「は?」」

 モアが何を言いたいのか一向に理解できない二人は、思わずその場に足を止めてしまった。

「メアリール様が、レピュテイシャン様の耳元に何か囁かれたわぁ。私には令嬢として殿方と距離をとれと言うくせぃ、ご自分は婚約者でもない男性にベッタリくっついてぇ。恥ずかしくないのかしらぁ?」

 ひいいぃぃぃ~~~!

 あまりのことに二人はモアを離し、お互いを抱きしめる。


「あんなに馴れ馴れしい態度をとられてぇ、レピュテイシャン様も可哀そうだわぁ。オリバー様の婚約者だからって皆気を使ってぇ。誰も何も言わないから、私が言ってあげるわね。メアリール様、王族の婚約者という権力を使って、嫌がる殿方にベタベタするのは、やめなさい。見苦しいわ!」

 ピシッとメアリールの顔に指さす、モア。


 …………………………。


 ペルタとジェミは、そのまま失神しそうになる。

 もう無理だ。

 こんなの自分達がどうにかできるレベルじゃない。

 諦めた二人は、そそくさと皆の視線が自分達に向かないうちに逃げることにした。

 唯一の味方である二人が去ったことに気が付かないモアは、そのまま腰に手を当てるとふふんと、ふんぞり返りながら話しを進める。


「レピュテイシャン様、お可哀そうに。今、私が助けてあげますからね。その色ボケ悪女から優しい私が救ってあげます」

「……この国には、侮辱罪はないのか?」

 目を据えるレピュテイシャンがメアリールにたずねると、彼女も唖然としたまま答える。

「ありますわ。こんなに堂々とされたのは、初めてですけれど」

「だろうな。色々な国を見て回ったが、俺もこんなのは初めてだ」

「レピュテイシャン様、悪女の言うことなど聞く必要はありません。早くこちらに来て。私の手を握って、さあ!」

「ハッキリと話すじゃないか。あの間延びした話し方はなんだったんだ?」

「多分、男性に可愛く見せたくて演出していたのではないかと」

「可愛いか、あれ? うっとおしいだけだと思うが」

「レピュテイシャン様ってばぁ、もう早くして」

 モアが喚き続けている間、微動だにせず話し続けている三人に、しびれを切らしたモアはレピュテイシャンに駆け寄ろうとした。


 そこで、ピシッと体が動かなくなるモア。

 ……え?

 そのまま、体が前に倒れ込んでいく。

 これは……一体……?


 驚くメアリールの肩を抱いたままのレピュテイシャン。とその後ろに控えていたパズと一瞬、目が合う。


 しつこいですね。どこに飛ばしても懲りないんであれば、少し眠っていてもらいましょうか。悪魔ではないので命は取りませんが、我が主を侮辱した罪は重いですよ。

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