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第二王子の後悔

 オリバーと彼女は、やはり合わないみたいだ。

 オリバーは何故か彼女に冷たくあたり、彼女はオリバーを視界にさえ入れていないようだった。

 つい口元が綻んでしまう。



「オーラン様、このお菓子美味しいですね。中に何が入っているんですか?」

 そう言ってタルトの中身をフォークで穿る、私の婚約者。

「……ポリアンナ嬢、そういう行為は控えた方がいいな。料理人は、料理の美しさにも気を使っているからね」

「あ、ごめんなさい」

 エヘヘと笑う婚約者に、私も口角を上げる。

 彼女は私より一つ年下なのだが、これが二十一歳のやることだろうか?

 出会ったのは彼女が十六歳の時だったが、その時はこういうはしたない行動も、もう少し年齢を重ねればやめるだろうと思っていたし、何より王子妃教育で洗練されると思っていた。

 それなのに彼女は十六歳のまま、時が止まってしまっているのだ。

 私と彼女の共通の友人など「それがポリアンナの魅力だろう」と言うのだが、学んでいるのにそれが何一つ身についていないのでは、やっていないのと同じことではないのか?


 城の中庭の一角に机と椅子を出して、心地よい日差しを浴びながら週に二回の婚約者とのお茶会を開いていたのだが、そろそろ時間かと時計を見ると、彼女が言葉をかけてきた。

「あの、オーラン様」

 珍しく目をキョロキョロと彷徨わせながら、言い淀んでいる。

 いつも思ったことをそのまま口にする彼女が珍しいなと思い、話しやすいように優しい口調で問うてみる。

「何?」

「そのぅ~、私達の、結婚は、いつ頃になるのでしょうか? お父様が婚約して四年も経つんだし、そろそろじゃないのかって」

 私はその言葉を聞いて、つい目を細めてしまう。

「……すまないね。まだ父上とは具体的に話をしていないんだ。それよりも二か月後に他国の王子が留学してくるのだが、滞在中の一切を私が任されてしまってね。当分忙しくなると思う。そういうわけで、このお茶会も暫くは中止してもらえるとありがたい」

「え? じゃあ、私達はいつ会うの?」

 王子の仕事として要人を迎える用意で忙しいと言っているのに、自分達が会うことを優先して考えるのか?


 私が何も言わず笑顔でいると、彼女が「あっ」と中庭の奥を指さした。

 そこには走り去っていくオリバーの後を、侍女が二人追いかけていた。

「お待ちください、オリバー様」

「嫌だね。それ受け取ったら俺がしないといけなくなるんだろう。絶対にヤダ」

「ですが、これはオセアン様からお預かりしたもので……」

「煩い、煩い。俺は何も受け取っていないからな」

「オリバー様~~~」

 どうやら兄上に頼まれた仕事が嫌で、オリバーが逃げているようだった。

 私は溜息を吐いて、侍女からその書類を受け取るべく席を立とうとしたのだが、侍女の後ろから美しい赤髪が見えた。

「ねぇ、その書類は、私が見たらいけないものかしら?」

 メアリール嬢が片手を頬に添え、小首を傾げている。

「いえ。そのような機密なものではないと思います。オリバー様にお任せしようとしたものですし……あっ」

 侍女がオリバーの目にするものだから、大切なものではないだろうと言ってしまう。

 気持ちは分かるが、王子に向かってそれは言ってはいけないだろう。

 己の過ちに気が付いた侍女が青い顔をする中、メアリール嬢はクスクス笑って、人差し指を唇に当てた。

「これ私が仕上げますので、オリバー様が仕上げたことにして持って行ってくださらない? そうすれば、貴方達も無事にお勤めを果たしたことになるでしょう。内緒ね」

 侍女が涙目でお礼を言っている中、私は小悪魔要素満載のメアリール嬢に……悶えてしまった。


 周りにバレないように肩を震わせながら俯く私に、私の婚約者は感心したように溜息を吐いている。

「ハア~、メアリール様は、お仕事もできるんですね。凄いとは思いますけど、殿方のお仕事をとるのはちょっと、出しゃばり過ぎではないですか?」

 そんなことをシラッと言う婚約者に私は、イラっとしてしまった。

 私の品位を落とすような行動ばかりとる婚約者より、よほど素晴らしいと思うけどね。

 王子の仕事を手伝える伴侶。素晴らしいじゃないか。

 しかも出しゃばると言うが、彼女は自分が手伝ったことを内緒にしてくれと言っている。

 それが誰にとってもいいことだと。

 でも、それでは彼女一人が損をしたことになるのではないか?

 私はそんな奥ゆかしい彼女に、ますます目が離せなくなるが、私の婚約者はそんなことも分かろうとはしない。

 こんな状態では私が本当に辛い時も、彼女が私を支えてくれることなど絶対にないのだろうな。

 私はスッと立ち上がる。

「すまないが、そろそろ仕事に戻らないといけない。また私の方から連絡するから」

「うん、分かった。待ってるから、早く連絡ちょうだいね」



 それから二か月の間、私は目まぐるしい日々を送っていた。

 今回迎える他国の王子は、どうやらこの国にとって利益をもたらす、大事な人物となるらしい。

 上層部が舌なめずりしている姿に呆れながらも、大事な仕事だと気合いを入れる。

 城での彼の生活は私が助力し、学園ではオリバーが請け負うこととなった。

 だが、あの甘ったれのオリバーのことだ。他国の王子とはいえ、人に気を使うなどできるはずもない。

 そうなると、必然的に彼女が世話をするということになる。

 一日のほとんどを学園で過ごす学生にとって、他国の王子とメアリール嬢は共に過ごす時間をどれほど長く持つことになるのだろうか?

 言い知れぬ不安と嫉妬心で、目眩がしそうになる。

 オリバーがもっとしっかりしてくれていればと思うものの、しっかりしていればこのように彼女と過ごす時間を持てることもなかったなと苦笑してしまう。


 目の前には、他国の王子を迎えるのに彼のスケジュールや注意事項を確認するメアリール嬢がいた。


 一応オリバーも近くにいるのだが、面倒くさくなったのか、私とメアリール嬢に任せて、書類を見ているフリをしながら菓子を食っている。

 オリバーを無視してメアリール嬢と二人で話を進めるが、打ては響く会話に私は満足感を得る。

 なんてやりやすいのだろう。

 才女と聞いてはいたが、これは頭が良いというだけではない。機転も効くし、何より人に対しての心遣いが繊細なのだ。

 こんなに素晴らしい女性を目の前にして、オリバーはよくもあんな頭も尻も軽い女性と一緒にいられるなと、思わず溜息が出てしまう。


 先日、今回他国の王子を迎えるにあたって学園内での世話役を頼む為に、学園へ彼女に会いに行ったのだが、そこでオリバーがこともあろうにメアリール嬢の前で、他の女とイチャついていたのだ。

 扉を挟んでいた為、彼らの様子は詳しくは分からなかったが、オリバーと見知らぬ女の会話が甘ったるすぎて眉間を押さえる私の耳に、メアリール嬢の凛とした声が入ってきた。

 思わず立ち上がった私だが、私が出てどうなるというのか?

 メアリール嬢を助けたいが、オリバーがどんな態度を取るか分からない。

 下手をすれば女の前で、彼女を傷付けてしまうかもしれない。

 私は扉の前で我慢を強いられた。

 だが、彼女が現れるとオリバーはサッと女から身を引いたようだった。

 そのまま三人の会話を聞いていると、女はメアリール嬢に敵意を燃やし、メアリール嬢は必要なことを淡々と述べ、オリバーは……メアリール嬢を意識していた。

 あいつは、メアリール嬢を拒否していながら、本当は気持ちを寄せて欲しいと思っていたのか?

 メアリール嬢から自分に歩み寄ってほしいが、彼女がオリバーを一切相手にしていないので、癇癪を起している。そういうことなのか?

 なんとも甘ったれたオリバーの考えることだ。

 私は、ハハハと心の中で笑った。

 私がいくら追いかけても見向きもしてくれなかった彼女が、オリバーごときの癇癪で振り向くものか。

 一度手を離し、もうその権利さえないはずの私は、それでも必死に考える。

 彼女を手に入れるには、何が必要なのだろう?

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